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デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

福田の蜻蛉日記

最終回「ダイオウグソクフクダムシ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
最終回「ダイオウグソクフクダムシ」



【某月某日】

「丸まれないワラジムシが同じだけ生き延びている以上、
ダンゴムシの丸まれる能力の意味って、いったいなに?」
でおなじみ、ご存じ“虫あるある”の福田です。

虫けらのみなさん、お元気でしたか?
駆除されませんでしたか?
寿命きてませんか?

「虫になってしまった人」という
グレゴール・ザムザばりの不条理な設定で
虫と人との懸け橋となり、
取るに足らない日常を活写する
平成の日記文学を目指したこの連載ですが、

ご存じのとおり、わずか5回で更新が中断という
情けない現状で今に至っております。
虫だけに、連載も冬を越せなかったわけです(虫うまいやつ)。


あと、途中で水嶋ヒロが『KAGEROU』って小説書いて
賞を獲っちゃったおかげで、やる気をごっそり削がれた、
というのもあるよね。

だって、『KAGEROU』って言いながら全然虫の話じゃないんだもんよ。
ウスバカゲロウが短い余命をフルに活用して
悪の魔王フマキラーを倒すワンダフル冒険ストーリーじゃないんだもんよ。

そりゃあ心が折れますよ。


…みたいな話が“虫時事ネタ”として許されたのも去年までだったわけで。

ついでに言っておくと、フマキラーっていう社名は
「フライ=蝿」と「マ(モ)スキート=蚊」の
「キラー」
って意味だって知ってた?
これ、“虫トリビア”な。


ま、本当の理由を正直に書くとだね、
日常のあれこれをいちいち虫を使ってうまいこと言う、
という企画そもそもの趣旨に割と抜本的な無理があったと、
そういうことが5回続けた時点でわかっちゃったんですね。

だったらわかっちゃった時点でやめろよと、
普通の人ならそう思いますわな。

それが俺という人間の、いや虫の不可解なところよ。

普段から、「焼肉食べに行きたいなあ」と思って、
思ったまま半年くらい経っちゃうことが
ザラにあるタイプの人間、いや虫なんです。

「え、まだ焼肉食べに行ってなかったの?」とか、
「え、そもそもまだ焼肉食べたかったの?」とか、
よく驚かれますが、そういうロングスパンで生きてるんだから仕方ない。

虫だったらとっくに死んでますけどね!(虫パラドックス)

だからね、連載中断から1年経って、私もようやく決意しました。

この連載、いったん打ち切ります。

この期に及んで「いったん」とか言ってるところに
私という人間いや虫、人間、もうめんどくさいから虫人間でいいや、
虫人間の往生際の悪さというか、意外と粘着質な性格が
クヌギの樹液のように滲み出ている(虫たとえ)わけですが、

なんらかの形で連載は再開します。
ただ、それは虫日記ではないと。

そういうことに気付いて、理解して、腑に落ちるのに
かかった時間が1年だったと、そういう風に思ってほしいのです。

完全にやめちゃうわけじゃない、
言ってみればセミリタイアです(虫ダジャレ)。

……。

ね、ダジャレが出ちゃったらもうやめるしかないよ。
潮時だよ。
虫の息だよ。


「虫」ってね、考えたらひどい呼び名ですよ。
ヒルとかムカデとかダンゴムシとかミミズとか、
どう考えても「親戚」ですらない、
本来まったく「他人」である種族違いの生き物すら、
「虫」とひとくくりに呼ばれてしまうカテゴライズの杜撰さ

でも、その「ゾウリムシもカブトムシも同じ虫でしょ?」みたいな、
ガバガバな懐の大きさを人にも適用すれば、
我々はもう少しラクにのびのびと生きられたのではないだろうか。

人がもっと虫みたいになればいいのに!

それが、この短い連載で俺が伝えたかったことだ。
ということにしてほしい。

そんな虫ののびしろというかポテンシャルを感じたところで、
みなさんとはお別れです。

また虫の知らせがあったらお会いしましょう。

んじゃ。


虫日記打ち切り
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第05回「モンキフクダアゲハ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第05回「モンキフクダアゲハ」



【某月某日】

「アリの体のつなぎ目って、いくらなんでも細すぎない?」
でおなじみ、ご存じ“虫あるある”の福田です。

私、虫の分際でたいへん恐縮ですが、
ただいま仕事が非常にヤバい状況で、
しかもその原因がひゃっくぱあせんと私にあるので、
今日は手短に済ませていいですか?

「お行儀」というものについて考えるんですよ。

たとえば、名前というのはその人が持って生まれたものであって、
本人の意思でどうにもならないものをネタにしたりからかったりするのは、
決してお行儀のいいことじゃないでしょ。
それが他の国の言葉だったりしたら、
なおさら勝手におもしろがるのは失礼だぞと。

でも、『チョン・ダヨンのモムチャンダイエット』というタイトルに、
一瞬、心がざわっとしてしまう私を私は否定できないのです。

チョン・ダヨンといわれて、脳内にどうしても
「赤塚不二夫のキャラクター」的な顔を
思い浮かべてしまうのは紛れもない事実であって、
誤解を恐れずにあえてさらに言えば、
「ふざけてるのか」とも思ってしまうわけです。

でも、自己弁護じゃないけどさ、
「思ってしまう」こと自体に罪はないと思うのさ。
それはもう、小学生が世界地図に「エロマンガ島」
見つけたらはしゃがずにいられないのと一緒ですよ。

「エロマンガ島」にはしゃぐことは、
「エロマンガ島(に住む人)」を馬鹿にすることと
イコールではないからね。

だから俺、チョン・ダヨンに関しては、
原語を日本語表記のまま出版しようと思った
日本人の編集者が「してやった」と思うよ。

チョン・ダヨンチョン・ダヨンのまま
チョン・ダヨンって言って売ったほうが、
日本人の耳に残るぞっていう確信犯ですよ。

かといって、そのやり方を
「お行儀が悪い」とは言いきってしまえないところが、
「お行儀」の難しいところなのよね。

さーて、話がひと段落したところで、
今夜も昆虫界の宿敵・フマ●ラー
「カミキリの羽」(カミソリの刃ではなく)
送りつける威力業務妨害に勤しむとするか。

じゃ。


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第04回「シロスジフクダカミキリ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第04回「シロスジフクダカミキリ」



【某月某日】

二足歩行のみなさん、こんにちは。
相変わらずの暑さに、冷凍庫で冷やした虫ゼリー
くらいしか食べる気がしない福田です。

更新が一週間空いてしまいましたが、これは別に
私の身の上に何らかの変化(脱皮とか羽化とか変態とか)が
起きていたわけではないので、ご心配なく。

ちょっとね、瀬戸内の島々に行って3日間ばかし羽を休めてました。
あ、「羽を休めてた」ってのは俺の場合、文字通りの意味だから。
こういうの、今日から「虫レトリック」って呼ぶからよろしく。

羽ばたいての移動、虫的にコレ、マジで疲れるのね。
だって考えてみてよ。ハチやカナブンの羽音ってすごいでしょ。
普通に考えて、あんな小さな体からあんな音させたら、背中がもげますって。

何の気なしに飛んでいるように見えて、あれみんな目を血走らせてるからね?
全員が全員、エスパー伊東や江頭2:50のような「りきみ方」を普段使いしてるんだもの。
そりゃあ、寿命も短くなるよ。

寿命が短くなるといえば、『24時間テレビ』で
マラソンをしていたはるな愛の寿命が縮んでいないか心配だ。
体作りや練習もそこそこに走らされて、あれじゃあ背中がもげますって。

あの番組は、ほんとに相変わらず観ていて虫酸が走るなあ。
虫酸マラソンだなあ(←あ、これが虫レトリックね)。

…いや、わかってるのよ?
今さら24時間テレビの偽善や欺瞞性を批判して
みせたところで、何の新しさも面白みもないってことは。
むしろ、さも鬼の首をとったように批判する価値すらないと思う。

だってあれ、やってることは『はじめてのおつかい』と一緒だもの。
知恵も体力もない子供がけなげに買い物をする姿は、
そりゃあ愛らしいし、いじらしいし、感動的だし、
それを観て泣くのは人間として自然な反応だとも思う。
でも、それは単に「バラエティ番組としてよくできている」ということだ。

同じことをハンデや悲運を背負った人にやらせることで、
単なる「番組の手法」を、さも「乗り越えるべき人生の試練」
であるかのようにすりかえるのは、なんというか、その、
虫が良すぎるのではないか(言っちゃったーーー!)。

そうそう。
何かに似てると思ったら、『24時間テレビ』って
虫同士を戦わせる企画モノDVDに似てるんだ。
カブトムシとオオムカデを戦わせたりさあ、確かにおもしろいけど、
それ、お前が無理やりセッティングしたマッチじゃん。

ま、そういう我われだって、
自分で掘ったドツボにはまっておきながら
「どうして私、うまくいかないんだろ…」とか
非運ぶっちゃう生き物ですからね。

人間は、自ら喜んでハンデを背負っては、
毎日、自分だけの『24時間テレビ』を
演じているだけなのかもしれない。

澱のように淀んだ現代人の心にとって、
それがけなげな「どぶサライ」の方法なのだ。

うーん、うますぎて背中がもげますって!


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第03回「ヘラクレスオオフクダカブト」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第03回「ヘラクレスオオフクダカブト」



【某月某日】

高校時代の部活仲間の飲み会が地元であってね。

普段、大塚ニューコーポのメンバーといると
あんまり気付けないことなんだけど、
いやあ、着実に来てるわ、結婚&出産ラッシュ

なんというかな、
具体的に日付が決まっているとかじゃないのよ。
むしろ、決まってないにもかかわらず、
「まあ、今の相手と次はもうそろそろ結婚かな」
みたいなことを自然と匂わせてくるあの感じね。

人として段階を踏んで生きている以上、
当然踏むべき手はずとして結婚や妊娠が
視野に入ってきてますよねうちら、みたいな。

意外とそういうところ堅実だな神奈川県民!
というのが偽らざる私の感想であって。

だって、結婚するってことはもう恋愛もセックスも
自由にしてはいけないってことだよ。
自分や相手が心変わりしないという保証と信頼を、
なぜたかだか27歳にして持てるのか。

けっこう本気でわからない虫が今、ここに一匹いるわけ。

みなさん、「自分には人並みの結婚生活が送れる」という
その漠然とした確信はどこから湧いてくるの?
というのを聞きたくて、とうとう聞けなかった福田なのです。

ま、虫なんで聞きたい以前にしゃべれなかったわけですけど。


*****

しかしでもあれだよ。
私が何よりも感動したのは、
虫になってしまったという信じがたい事態にもかかわらず、
同級生たちがこれまでとさほど変わらず
私のことを受け入れてくれたことだ。

みんな私のことを昆虫だとは見なさず、
虫けら同然の人間として扱ってくれた。

「大丈夫だよ、前から虫みたいなところあったし」
「虫になって、むしろしっくりくる感じだよね」
「今まで虫じゃなかったことが不思議なくらいだよ」
「あれ、ていうかとっくに虫だと思ってた」
みんな、私のことを傷つけまいと必死でフォローしてくれる。

私の生態を察してか、会話の中に不用意に
「駆除」「キンチョール」「触角が取れる」
といったフレーズが出てくるのを避けているのがわかるが、
その他はこれまでと変わらずに接してくれている。

みんな、ありがとう。

*****

夜は部員同士で結婚した夫婦の家に泊まりに行ったのだが、
翌朝、玄関先にカブトムシの頭が
いくつも転がっていて
おったまげた。

え、なに?
なんかのサインなの?
ドリカム的に言えば、
「カブトの頭5体陳列 シ・ン・デ・イ・ルのサイン」なの?

もしや、これが昆虫界の通信手段?
虫になった私に、虫神様(そんなのいるのか知らんが)からの
ムシムシテレフォン(そんなの以下略)なのか?

テキパキとパニックに陥りそうになったのもつかの間、
家人に聞けば、夏に入ってからなんとほぼ毎朝、
カブトムシの頭部だけが落ちているのだという。
たぶん、猫やアライグマなどの動物の仕業だろう、とのこと。

そりゃあ、佐川急便のお兄ちゃんが不在連絡票の代わりに
カブトの頭をへし折って玄関に置いていたらすごく嫌なので、
ここはなんとしても動物の仕業であってほしいのだが、
するとあれか、カブトムシを食べる動物にとって、
あのツノの部分はエビフライでいうところの尻尾
ローストチキンでいうところのアルミホイルなのね。

たぶん、ツノの部分を手で持って食べるんだろう。
いやーん、かわいい。

それよりも、毎朝食べ残せるほどたくさんの野生のカブトが
大船に生息していたことに一抹の驚きを禁じ得ないよ。
「え、カントリーマァムって白あんが入ってるの?」くらいの小さい驚きだけど。

俺も食べられないように気を付けなければ。


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第02回「ウスバフクダカゲロウ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第02回「ウスバフクダカゲロウ」



【某月某日】

弱った。
なにが弱ったって、朝目覚めたら
自分が虫になっていたのである。
そりゃあ弱るだろう。

あらためて自分の体を見回してみるが、
手足をはじめ、体は硬い甲羅のような
骨格で覆われていて動きにくいし、
背中にはカゲロウのような
大きな羽が生えており背筋が痛い。

ベッドの脇に立てかけられた姿見に
映った自分の醜悪な姿を見た瞬間、
普段なら恥ずかしくて叫べない松田優作の
あのセリフが、思わず口をついて出る。


「ジージジジ、ジーーーーッジジジ!」


…出なかった。



「なんじゃ、こりゃあああああああ!」


と叫んだつもりだったが、実際には
腹弁にある発音膜が震えただけだったのだ。

いよいよ自分が人間ではなくなったことを実感し、
心の底から本格的にほとほと弱ってきた。


わざわざ弱らなくたって
そもそも弱いのが虫という存在だ。

吹けば飛ぶし、叩けば潰れるし、
「網戸に虫こない」と断言されたらもう網戸にも行けない。

そんな理不尽なまでの脆弱体質をほしいままにしている
あの虫に、まさか自分がなってしまうなんて。


…ああ、先週の今頃は、のんきに
『借りぐらしのアリエッティ』観てたのになあ。


アリエッティ、想像してたのとだいぶ違ったなあ。

他人の家の軒下で暮らす小人の話だっていうから、
俺はもっとこう、ダンボールで雨風をしのぐテクニックや、
賞味期限切れの弁当で食あたりを防ぐコツ、
ネットカフェで仕事と素敵な恋を探す方法などが、
吾妻ひでお似の主人公(身長はひざ丈くらい)によって
訥々と語られる、松江哲明とかが監督の
ドキュメンタリーだと思ってたのに。

なんのことはない、ちっちゃい泥棒の話だった。
南くんの恋人にルパン風味を織り交ぜてた。

「神は細部に宿る」と言うが、小人目線から見た世界の作り込みはさすが。
でも、その細部の豊饒さだけで90分押し切った印象はぬぐえず、
物語の骨格はグラグラだったように思う。

とはいえ、ジブリ作品って実は全然ウェルメイドじゃなくて、
あからさまな飛躍や破綻を平気でストーリーに盛り込んでくるでしょ。
『千と千尋』しかり、『ポニョ』しかり、けっこう本気でわけわかんないし。
あの名作『トトロ』だって、大人になってから初めて観ていたら、
たぶん「え、なに?」みたいな腑に落ちない点がけっこうあると思うんだよね。

ただ、直感的に子どもをワクワクさせる圧倒的な魅力だけがある。

『アリエッティ』も、おそらくそういった愛され方をする
『トトロ』に似たタイプの作品になるのではないでしょうか。


それに、今なら私にはわかる。

この映画は、“虫目線”から見た世界をきわめて
忠実に代弁した、数少ない貴重な映画である。

あの頃の私は、まだまだ「人間」としての驕った立場から
この映画を観ていたから気付かなかったのだ。

アリエッティと半ば同じ境遇になった今、
私は彼女の身の上にいたく感情移入している。
私なら、この作品のタイトルをこう名付けるだろう。



「虫はつらいよ~ゴキブリ少女のてなもんや放浪記~」




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第01回「チャバネフクダゴキブリ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第01回「チャバネフクダゴキブリ」




無難に日記を書こうと思った。

『大塚ニューコーポ』の連載コラムの更新が止まって早一年。
企画を立てては潰し、書いてはフェードアウトしてきた私が、
どうにか連載の体をなして何かを書かせてもらえるとしたら、
もはや日記でお茶を濁すくらいしか続けられる手立てはないと思ったのだ。

幸い、面白くもない日常をいじりたおすことなら、
これまでにもさんざん書いてきた。
ていうか、そういうことしか書いたことがない。

できるかわからないことを始めて、案の定
頓挫させてしまうのがこれまでの人生だったのだから、
できるとわかっていることを地道に続けるのは、
もうすぐ30歳になってしまう男の前向きな
あきらめ方として、もっとも相応しいのではないか。

私は、そういう人間なのだ。
いや、「人間」だったのだ。
あの日の、あの朝までは。


*****

【某月某日】

大塚から早稲田に引っ越して半年経って、
何がいけすかないって、部屋に
ゴキブリが出るようになったことだ。

狭い狭い6.5畳のワンルームに
レギュラーサイズのゴキブリが出没すると、
広い部屋よりも、必然的にゴキブリの占有率が高くなるわけで、
人間様が月収の1/3の家賃を払ってやっとこ住んでいる牙城に、
わずかでもあんなキャラメリゼした松崎しげるの皮膚みたいな
生物をタダで間借りさせているかと思うと、
これはもう相当にいけすかない事態だ。

パッケージでそこそこかわいいと思って借りた
AVの女優が、中を観てみたら
「フジの高橋真麻アナそっくり」
だったとき以上にいけすかない。

で、仕方がないから前足をこすりあわせつつ
近所のドラッグストアに向かい、
「虫にきびしく、人にやさしい」という
キャッチフレーズが書かれた殺虫スプレーを購入。
なんでも、ゴキブリの通り道にあらかじめ
噴霧しておくだけでも殺虫効果があるという。

さっそく、部屋の壁づたいに「憤怒!」という勢いで噴霧し、
これで今年の夏はゴキエッティを借り暮らしさせるまい、
と溜飲を下したのもつかの間。

なんかさ、鼻水が止まらないのね。
かんでもかんでも「もう出てくるの?」みたいな、
ねづっちのなぞかけのような信心深いテンポで
鼻水がこみ上げてくるのである。

もうね、クヌギの樹液のようなこみ上げ方なんですよ。
思わず「おいしそう」とすら思いましたね。

「人にやさしい」と書いてあったはずなのに、
この殺虫スプレーは、なぜこんなにも俺にきびしいのか。
まったくもって、いけすかない。
フジの高橋真麻アナ本人よりもいけすかない。

思わず街灯にたかりたくなる気持ちを抑えながら、
その日はさなぎのように眠りについた私なのだった。

*****


翌朝、腹側部の呼吸孔に息苦しさを覚えて
目を覚ました私は、寝ぼけまなこをこすろうとして
その目が複眼であることに気付き、ギョッとした。

自分が虫になっていたことを理解したのは、それから5分後のことだ。

その日から、私の「リアル・バグズライフ」が始まったのである。



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