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デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

第01回「チャバネフクダゴキブリ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第01回「チャバネフクダゴキブリ」




無難に日記を書こうと思った。

『大塚ニューコーポ』の連載コラムの更新が止まって早一年。
企画を立てては潰し、書いてはフェードアウトしてきた私が、
どうにか連載の体をなして何かを書かせてもらえるとしたら、
もはや日記でお茶を濁すくらいしか続けられる手立てはないと思ったのだ。

幸い、面白くもない日常をいじりたおすことなら、
これまでにもさんざん書いてきた。
ていうか、そういうことしか書いたことがない。

できるかわからないことを始めて、案の定
頓挫させてしまうのがこれまでの人生だったのだから、
できるとわかっていることを地道に続けるのは、
もうすぐ30歳になってしまう男の前向きな
あきらめ方として、もっとも相応しいのではないか。

私は、そういう人間なのだ。
いや、「人間」だったのだ。
あの日の、あの朝までは。


*****

【某月某日】

大塚から早稲田に引っ越して半年経って、
何がいけすかないって、部屋に
ゴキブリが出るようになったことだ。

狭い狭い6.5畳のワンルームに
レギュラーサイズのゴキブリが出没すると、
広い部屋よりも、必然的にゴキブリの占有率が高くなるわけで、
人間様が月収の1/3の家賃を払ってやっとこ住んでいる牙城に、
わずかでもあんなキャラメリゼした松崎しげるの皮膚みたいな
生物をタダで間借りさせているかと思うと、
これはもう相当にいけすかない事態だ。

パッケージでそこそこかわいいと思って借りた
AVの女優が、中を観てみたら
「フジの高橋真麻アナそっくり」
だったとき以上にいけすかない。

で、仕方がないから前足をこすりあわせつつ
近所のドラッグストアに向かい、
「虫にきびしく、人にやさしい」という
キャッチフレーズが書かれた殺虫スプレーを購入。
なんでも、ゴキブリの通り道にあらかじめ
噴霧しておくだけでも殺虫効果があるという。

さっそく、部屋の壁づたいに「憤怒!」という勢いで噴霧し、
これで今年の夏はゴキエッティを借り暮らしさせるまい、
と溜飲を下したのもつかの間。

なんかさ、鼻水が止まらないのね。
かんでもかんでも「もう出てくるの?」みたいな、
ねづっちのなぞかけのような信心深いテンポで
鼻水がこみ上げてくるのである。

もうね、クヌギの樹液のようなこみ上げ方なんですよ。
思わず「おいしそう」とすら思いましたね。

「人にやさしい」と書いてあったはずなのに、
この殺虫スプレーは、なぜこんなにも俺にきびしいのか。
まったくもって、いけすかない。
フジの高橋真麻アナ本人よりもいけすかない。

思わず街灯にたかりたくなる気持ちを抑えながら、
その日はさなぎのように眠りについた私なのだった。

*****


翌朝、腹側部の呼吸孔に息苦しさを覚えて
目を覚ました私は、寝ぼけまなこをこすろうとして
その目が複眼であることに気付き、ギョッとした。

自分が虫になっていたことを理解したのは、それから5分後のことだ。

その日から、私の「リアル・バグズライフ」が始まったのである。



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