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デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

第02回「ウスバフクダカゲロウ」

福田の蜻蛉日記~すばらしきバグズライフ~
第02回「ウスバフクダカゲロウ」



【某月某日】

弱った。
なにが弱ったって、朝目覚めたら
自分が虫になっていたのである。
そりゃあ弱るだろう。

あらためて自分の体を見回してみるが、
手足をはじめ、体は硬い甲羅のような
骨格で覆われていて動きにくいし、
背中にはカゲロウのような
大きな羽が生えており背筋が痛い。

ベッドの脇に立てかけられた姿見に
映った自分の醜悪な姿を見た瞬間、
普段なら恥ずかしくて叫べない松田優作の
あのセリフが、思わず口をついて出る。


「ジージジジ、ジーーーーッジジジ!」


…出なかった。



「なんじゃ、こりゃあああああああ!」


と叫んだつもりだったが、実際には
腹弁にある発音膜が震えただけだったのだ。

いよいよ自分が人間ではなくなったことを実感し、
心の底から本格的にほとほと弱ってきた。


わざわざ弱らなくたって
そもそも弱いのが虫という存在だ。

吹けば飛ぶし、叩けば潰れるし、
「網戸に虫こない」と断言されたらもう網戸にも行けない。

そんな理不尽なまでの脆弱体質をほしいままにしている
あの虫に、まさか自分がなってしまうなんて。


…ああ、先週の今頃は、のんきに
『借りぐらしのアリエッティ』観てたのになあ。


アリエッティ、想像してたのとだいぶ違ったなあ。

他人の家の軒下で暮らす小人の話だっていうから、
俺はもっとこう、ダンボールで雨風をしのぐテクニックや、
賞味期限切れの弁当で食あたりを防ぐコツ、
ネットカフェで仕事と素敵な恋を探す方法などが、
吾妻ひでお似の主人公(身長はひざ丈くらい)によって
訥々と語られる、松江哲明とかが監督の
ドキュメンタリーだと思ってたのに。

なんのことはない、ちっちゃい泥棒の話だった。
南くんの恋人にルパン風味を織り交ぜてた。

「神は細部に宿る」と言うが、小人目線から見た世界の作り込みはさすが。
でも、その細部の豊饒さだけで90分押し切った印象はぬぐえず、
物語の骨格はグラグラだったように思う。

とはいえ、ジブリ作品って実は全然ウェルメイドじゃなくて、
あからさまな飛躍や破綻を平気でストーリーに盛り込んでくるでしょ。
『千と千尋』しかり、『ポニョ』しかり、けっこう本気でわけわかんないし。
あの名作『トトロ』だって、大人になってから初めて観ていたら、
たぶん「え、なに?」みたいな腑に落ちない点がけっこうあると思うんだよね。

ただ、直感的に子どもをワクワクさせる圧倒的な魅力だけがある。

『アリエッティ』も、おそらくそういった愛され方をする
『トトロ』に似たタイプの作品になるのではないでしょうか。


それに、今なら私にはわかる。

この映画は、“虫目線”から見た世界をきわめて
忠実に代弁した、数少ない貴重な映画である。

あの頃の私は、まだまだ「人間」としての驕った立場から
この映画を観ていたから気付かなかったのだ。

アリエッティと半ば同じ境遇になった今、
私は彼女の身の上にいたく感情移入している。
私なら、この作品のタイトルをこう名付けるだろう。



「虫はつらいよ~ゴキブリ少女のてなもんや放浪記~」




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