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デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

アーカイブ: 2009/03/10

第07回 「時には毒のない蝮のように」

第07回 時には毒のない蝮のように


落ちた。

連載の話ではない。
…って、いや、もちろん連載もじゅうぶん落ちているわけだが、
それ以上に、もっと人間として大事なものが、いろいろ落ちた気がして、深く反省している。

その上、連載まで落としてはいよいよ人として
だめだと思うので(だからもう落としてるんだけど)、
今回は、時間がないことを表わすためにフォント大きめの
エマージェンシーレイアウトでお届けしてもいいだろうか。
だめって言われてもそうするんだけどさ。

私は、午前10時とか11時とかに平気でタクシーに乗って会社へ行く社会のクズですが、
そんなクズにとっても、車内を流れる『大沢悠里のゆうゆうワイド』は心のオアシスであって、
特に毒蝮三太夫先生のコーナーには、いつも心洗われる思いになるのですね。

彼の高齢者いじりのテクニックには、実に学ぶところが多いと思う私なのです。

彼は、世間的には「毒舌キャラ」ということで通ってはいるが、
実のところ、彼の言葉は「ババア」たちをちっとも傷つけないように配慮されている。
本当に人を傷つける核心からはきちんと的をはずし続ける絶妙な采配を振るっており、
それでいてトータルイメージとしての「毒舌」という印象を残すことには見事に成功しているのだ。
「ババア、長生きしろよ!」は、昭和に誕生した日本最古の「ツンデレ」である。

難しいことを言ったが、要するに、毒蝮の毒舌は絶妙に「当たり障りがない」のだ。
途端に言い方がしょぼなくなってしまったきらいはあるものの、
しかし諸君、当たり障りがないってことをばかにしてはいけない。

当たり障りがないことを言えるのは、それだけで「うまく生きていく力」だと、私は思う。
たとえば、お昼のワイドショーに出ている人は、おしなべて一様に「当たり障りのない才能」を持っている。
大和田獏、大下容子、佐々木正洋……。
今、たまたま全員『ワイドスクランブル』の出演者ばかりになってしまったが、
彼らは揃いもそろって当たり障りがない。

映画にコメントをするおすぎ、グルメレポートをする彦麻呂、あるいは、恵俊彰の存在そのもの。
彼らもまた、「当たり障りがない」からといって責められることはないし、
むしろその「当たり障りのなさ」のおかげで、決して食いっぱぐれない。

泉谷しげるや井筒監督も、一見、頑固な怒りオヤジのキャラをかぶり、
「毒舌」に見せかけてはいるが、「実は言ってることはそうでもない」という意味では
やはり圧倒的に当たり障りがない人たちである。
ただ、彼らの場合は、底の浅いキャラ付けのせいで、
いざメッキが剥げたときのしょぼさが際立ってしまったのが失策であった。

その点、やはり毒蝮師匠の毒舌は、
正露丸が糖衣でくるまれているように「人情」でくるまれている。
無理のない、持って生まれた自然体の「当たり障りのなさ」なのだ。
これが、綾小路きみまろでは、こうはいかない。
彼は基本的に「どや顔」で毒舌を吐く。
そのどや顔が、人々の心を逆なで、
引いては「ヅラも暴いてやろう」という気にさせるのである。

何はともあれ、毒を吐くなら毒蝮のようにありたい。
なんなら、毒蝮そのものになりたい。
俺も、全国のマルエツやドラッグストアの店頭で、ジジイ、ババアに囲まれて和やかに談笑したい。

なぜ、そんな心にもないことを思うのかといえば、
今の私が、とても「当たり障りのある」状態にあるからで、
口を開けば当たり障りのあることを言ってしまいそうで仕方がないのだ。
必死で、何か関係のない、たとえば「加護ちゃんはそろそろハッスルに出て、インリン様の後を継げばいいのに…」とか楽しいことを考えて気を紛らわそうとするが、今こうしている間も綱渡りである。
こんなとき、当たり障りのなくいられる人が、心底羨ましい。

毒蝮だって、時には虫の居所が悪いときだってあろう。
そんなとき、目の前のババアに「この腐れ干し柿め!落ち葉の下で朽ちろ!」とか言って当たり障りたくなるときもあるだろう。
そんなとき、どうやって毒蝮は当たり障りなく、荒ぶる気持ちを抑えているのか。
知りたい。切に知りたい。
誰か、私に「当たり障り」の作法を教えてくれんだろうか。

とにかくその日、どうにも行き場のない気分だった私は、十分に「当たり障りのある」人をうやむやに抱き締め、人生最初の「同意のないキス」を、その人にしてしまったのだった。

落ちた。
人として、落ちた。
私にデリカシーを語る資格など、もうとっくにないのである。

ババア、そしてこれからババアになりゆく未来のババア、
みんなみんな、長生きしろよ!
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