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肉布団京一の作文教室

かぐや姫+SF小説 第二話

オポリ ゲ ダビーラ ヨムヤムヘレデスオイト ガンダギャンドゥイ(では早速、片栗粉でとろみをつけていきまーす) 
ジャック・ラカン「野菜と梅毒より」


かぐや姫にとって「地球で老人によって持ちかけられる縁談、その後結婚」というシナリオほど、生きる気力をそぐものはなかった。

ボリンガ星人にとって、異星人との結婚はそのまま異星への永住を意味するのであって、話に聞いたことしかないジュレティおばさんの様な悲惨で滑稽な人生を歩むわけにはいかないので、かぐや姫は真剣に考えていた。

そもそもこの星に嫌々ながらも送られてきたのは、無事に帰るため、帰って大人になるためなのであり、ボリンガに帰った後、『ダダビリの昼下がり』や『キーラ・デッセ・オマン―ニンタポの物語―』などで知られる俳優のケゲレー・ウドンコスタのようなタイプの男子と出会えないとも限らないし、割と思い込みの激しいタイプでもあるかぐや姫にとっては、そういう出会いがまず間違いなく訪れるであろうとほぼ確信していた。

だので。

どんな奴が求婚に来ようとも、ヴェンドポ地方出身の女性らしく、言葉とテクニックで首尾よく追い払うような算段を、ほぼ毎夜、ボリンガのある方角の空をじっと眺めながら繰り返していた。

時は来た。

かぐや姫の前には五人の男たちがずらりと並んだ。

地球の男たち、それも強欲にまみれた連中特有の、脂ぎった精神が作り出す汚い笑顔をそれぞれが個性なく浮かべながら、群がっていた。

どいつもこいつもなかなかに高貴な身分らしく、この星での流行を取り入れた奇抜なファッションに身を包んでいたが、異星人の立場からものを言わせてもらえば、どれもこれも見るに堪えない、例えるならばユーゲダの死骸にゼンポニやゲジュンがプンプンたかっているような(まあそれは言いすぎだが)、そういうひどいものだった。

だから無茶苦茶を言った。

仏の御石の鉢も蓬莱の玉の枝も火鼠の裘も龍の首の珠も燕の子安貝も、ボリンガではたやすく手に入る類の別段珍しいわけでもない代物だったが(とはいってもその辺に落ちてるとかそういうことではなく、ウェンジズ爺さんに頼んでインダボ・フェンダボの術を使って出してもらうわけだが)、地球にはその手の超人がいないのでまあ見つけてくるのはどだい無理な話と踏んで、「これを持って来たら結婚してやる」と高らかに宣言してやった。

5人のうち4人までは、まあ精神が淀んでいたのだろうこともあって偽物をこしらえたり、的外れなものを持ってきたり天気が悪くなったので探すのをやめたりしていたが、ちょっと好青年タイプの(俳優でいえばミン・ダッセ!)男が、いささか誠実な探しっぷりであと一歩のところまで肉薄してしまったので、まあ彼には悪いことをしたがサクッと絶命してもらった。

はい残念~

心の中でかぐや姫はニマニマしながら、なんとか縁談の危機を乗り切ったのでいよいよさあやっとこさついに帰れるぞ帰るぞ帰ってやるぞと、盛り上がっていた。

なのに。

かぐや姫の噂を聞きつけたこの国のトップオブセンターオブジアースが、つまりは帝が、「ちんかぐや姫にあいたいちん」と言ってきた。

正直面倒だったが、まあそこ押さえておけば箔が付くのは間違いなかったので、まあとりあえず行ってみた。

だがそれが悲劇の始まりだった。

後世に「ボイヘレンの乱」と語り継がれる宇宙大戦争の序章と、この対面がなろうとは、送られてきた帝からの招待状に描かれた帝の顔に、落書きしそれに飽き、寝て、厠に行きたいとごね、何でさっき言わなかったんだと諭され、さっきはしたくなかったんだもんといじけ、寝て、こんな狭い籠で運ばれる私、を、飛脚がかつぐ荷にたとえ、こんな歌を詠んだかぐや姫は、知る由もなかった。

ニタラグデ イタルデレンヴォ ココタミル ヒングラベベド キニスカヤンゲ

思いがけず名歌が詠めたので、またニマニマしつつ、何度も言うようだがこの時のかぐや姫には知る由もなかったがこの後、えらい大変なことになるのであった。

次回早くも最終回!

続く
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かぐや姫+SF小説 第一話

ニブ エ ダッセシ マラッキキダゲルポドフ
(お好み焼きだからって何いれてもいいってわけじゃないんだぜ)
 ルカ福音書 第3章58節


かぐや姫は自分の運命を呪っていた。

姫とは名ばかりの、国王の第11側室の次女にすぎない自分のようなものは、こうして見知らぬ星の臭い植物の内側に身をひそめて佇んでいるのがお似合いなんだよと、昔からウマの合わないジュリトン姫が陰で言っているような、そういう気がなんだかずっとしていた。

早く星に帰りたい。

星に帰ったからと言って、そこそこに虐げられるであろうかぐや姫を待ち受けている運命などたかが知れていたが、それでもこんなところにいるよりはましだと、思っていた。

かぐや姫の生まれたウリウリ系M110星雲ボリンガには、成人女性になるその前に、ユン・ホイズラー博士の開発したニンゲッカイルポージポ装置によって急速に幼児化された後、チンダルーリワープによって適当な星に送り込まれ、伝説など適度に残しつつなんとか生き残れば晴れて大人、生き方が平凡だったり野蛮な獣とかに捕食されて生き残れなければそのまま追放っていうかさよなら、みたいなほとんど罰ゲームの様なならわしがあり、馬鹿言ってんじゃねえようざってえよケツの穴に豚トロぶちこんで雑に割った割り箸でぐちゅっとするぞこの野郎、とだれもが皆一様に思うようなしきたりながらも、黙ってそれを受け入れざるを得ない自分の残念な生い立ちには、嫌気がさすばかりだった。

だが、そうは言っても、ここまで来たからにはきちんと成果を残して帰りたいと思うのがかぐや姫の案外真面目なところでもあり、こうしてヒッテレに似た植物の中に身をひそめているのも、初めの出のテンションを大事にしたいというのと、なにはなくともちっちゃいのは無条件にかわいがってもらえるもの、というのを身をもって知っていたからであった。

だもんで。

かぐや姫を発見したのが耄碌した老人だったのは幸いであった。

既に視神経がいかれ現実と夢の境界が精神的にも視覚的にもあいまいなその老翁は、自分はまだまだボケちゃいないんだと言うことを主張すべく、たまたま切った竹の中から偶然少女が出てきたという事実を、竹藪の中で光っていた竹を見つけ切ってみたら玉のようにかわいい少女がいた、という思いがけずレジェンドな方向に捻じ曲げてくれた。

こうしてかぐや姫は期せずして、この星である程度スペシャルでいられる基盤を手に入れ、そして、ほとんど病気のようなスピードで成長した。

通常、ニンゲッカイルポージポ装置によって幼児化したボリンガ人の女性が、ウンツク製薬のショルタリンBを毎食後2錠ずつ服用した場合にのみ、3年程度で元の状態に戻ることが出来るわけだが、おそらくこの星の大気の状態や老人たちがふるまってくれる食事(かぐや姫は筑前煮と呼ばれるブルレッロからオレペレの実を抜いたような料理が特に好物だった)が何らかの、ベオブラボリンに似た成分を含んでいた結果、そういうことになったのだろう。

そうして、数カ月の間に元の、年相応の姿に戻っていったこともまた、かぐや姫の生涯をいい感じにレジェンディックな装いにしてくれたので、幸いだったと言える。

しかし、こうなってくると気になりだすのは、かぐや姫は果たしていつどのタイミングでこの星から帰ることができるのか、と言うことだった。

ボリンガ星のそもそものならわしでは、「生き残る」と言うことがかなり重要なわけで、それは幼児化したボリンガ星人の女性はしばしば獣の餌食になりやすいからなわけだが、これだけ手厚く過保護に扱われていたらそういう心配もなく、なので要するに、もうすぐにでも帰還できるのではないかと期待してしまうのも無理がないのであった。

だがそううまくもいかない。

テリターリおじさんがよく言っていた「ゲレ イポリーポ ユル フェッタ インヴォス!」というあの諺をつい、思い出してしまう。

ある日、老人たちがかぐや姫に示したのは、この星の背の低い男たちとの「結婚」という、もう元も子もない提案だったのだ。

続く
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「桃太郎+官能小説」 第五話(最終回)

赤鬼(1036)は、その日もこれまでの毎日と全く同じ朝が来、やがてこれまでの毎日と全く同じ夜が来るものだと、そう思っていた。

そもそも、鬼退治、と言えばなんだか聞こえはいいが、要するにそれは人種差別である。

人を見た目で判断し、肌の色で人間の価値を決める。

これをアパルトヘイトと呼ばずに何と呼ぼうか。

腹立たしいのはやまやまだが、ひとつ問題があった。

・・・タイプだった。

桃太郎イズマイライフ。

とか、赤鬼が考えてたとは露知らず、桃太郎一行は、鬼を、ズタズタにして殺した。

その模様をダイジェストで伝えると、大体こんな感じである。

桃太郎はまず、赤鬼の胸元に、何となく丁度良いような気がして、ロン(キジ)を投げつけた。

ロンはついばんだ。
夢中でついばんだ。

次に自主的に向かって行ったのは、血の気の多い性格でおなじみのポー(サル)である。

背中をひっかいた。
やたらとひっかいた。

最後に嫌々突っ込んでいったのは、実は既にその体が不治の病に冒されているショー(イヌ)である。

後ろから首をかんだ。
ただかんだ。

桃太郎はとどめに、家から持ってきたけど一度も使ってないからちょっとさびてる刺身包丁を、もうほとんど息も絶え絶えの赤鬼の下腹部につきたてた。

ズブブブッ、と言う音だけがやにわに響いていた。

大体こんなのである。

だが、赤鬼にとっては、ちょっとしたエロパラダイスだった。

赤鬼目線でもう一度、プレイバック。

胸元への鋭いついばみは彼の乳頭温泉をビンビンに湧き立て、背中への爪を立てたる愛撫は彼の一角獣、すなわちユニコーンをより屈強にけたたましくしたのだし、首元への強かなるギャートルズ的な肉を思わせるかぶりつきは、足元が、ていうかそこら一帯が、頸動脈からドバドバ出た血で、ビタビタになっていたけれど、誰にも渡したくないよお前をという気持ちで、キムタクで言う所の「俺じゃダメか」的な、そういうつまりはあすなろ白書だった。

そして何より、タイプのゴリゴリ眉太ヤングマンにちょっと鋭利な金棒で、下腹部をズブリズブリと刺される最高のフィニッシュホールドには、二つの意味で昇天するしかなかったのだった。

こうして鬼は死んだ。

桃太郎は思い切りよく、手分けをして、鬼の首を切り取って、記念に持ち帰ることにした。

帰るまでにまた多くの時間を要したので、鬼の首には蛆が、引くほどわいちゃあいたが、そもそも土に帰るのかどうかも微妙だったので、我慢した。

無事、帰宅。

ただ、桃太郎が「ああ人生っていろいろ」と思ったのは、家に帰るとでんじろうとふじこと誰だか知らない汚いでかい男が、誰がどう見ても争った形跡をそこかしこに残して、コッテリ血まみれで、もつれるように死んでいたことだ。

ハエがたかっていた。

ハエがたかっているそれと、ウジがわいた鬼の首とぐちょぐちょに腐りきってる犬の死骸(だいぶ前に病死)を抱え帰って来た桃太郎は、それをそれの隣に置いて、それらを横目に、隣で、久々に布団を敷いてぐっすりと眠った。

いろいろと面倒なことはすべて先送りにして。

その夜、桃太郎は7歳になった。

普通の人間でいえば、30歳そこそこと言ったところである。

はい、めでたしめでたし
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「桃太郎+官能小説」 第四話

ショーとロンとポーは揃いも揃ってみなしごだった。

みなしごだったからこそ、肉食する側とされる側という種族も超えて、まあたまにはうっかり羽根噛み切ったりなんとなく耳突き破ったり思いつきで足半分くらいもいだりはしたけれど、ある意味それも「じゃれあい」の範疇に含めることが出来ると皆それぞれが信じていたし、あ、そうだ言うの忘れてたけどショーがイヌでロンがキジでポーがサルね、なんかそういう距離感が心地よかった。

で、お団子発見。

味、まあまあ。

目の前の裸の男が、言葉巧みに三匹を「鬼退治」に連れて行こうとする一連の説明の中で、実はこいつもまたみなしごだと分かり、まあ一緒に行くことにした。

で、迷子になった。

みなしごで迷子。

0点である。

都は思いのほか広く冷たく、そしてよそ者に手厳しい。

それゆえに叩き出された0点だ。

とぼとぼ

とぼとぼとぼ

そんな音を立てながら歩いていた。



都の外れでスプリングセールしてた老婆が、あまりにも優しかったので、一人と三匹は見事に発情した。

「獣込み1600円」

はっきりしてたのは、ここで1600円を払ってしまうと、財布が「おしまい」になるということだった。

でもそうこう考える前に、桃太郎は既に、ていうかずっと、全裸だった。

どうせ0点じゃねえか。

おしまいからはじめようじゃねえか。

そして獣たちは仲睦まじく、同じエロティックコスモスな妄想にその小さなオツムをすっかり支配された。

ちなみにそのエロティックコスモス、こんな内容である。

・・・・・・・・・・・・・・・・

ショーとロンとポーはすぐに片道切符を購入した。

帰ってくる必要などない、ただいくだけ。
そういう決意があったのだ。

ウリザネ(仮名・91)の半自動扉を開閉ボタンによって開けてみると、連結部分の揺れがすさまじく、「モハ!」とか「クハ!」と吐息をもらさせることに成功。

獣たちの御成門駅にもう戻らないという決意は固かったが、たまプラーザから亀有を結ぶリニアモーターガールと化した彼女へのピストン輸送は、パンタグラフからセクシャルエナジーを取り入れようと奮闘しても結局、脱線と人身事故を起こすばかり。

そんな獣たちのチンチン電車を尻目にワンマン電車でかつ快速ラビットなウリザネは、簡単にトンネルを抜けちゃって、まっちろな世界ばかりがその眼前には広がっていたのである。

ぽぽー

あ、汽笛が鳴った。

よし、ぼくたちのふるさとにむけて、しゅっぱつしんこーだ。

わーいわーい。

・・・・・・・・・・・

というような、予想にたがわぬやや頭の足りないものであった。

そして、ウリザネは言った。

あすこの橋さ渡ってどんつきが、鬼が島だで。

キター

全員文無し骨抜きワールドイズエンドって感じだったが、まあとりあえずそっちに歩き始めた。

ずいぶん寄り道が過ぎたが、いよいよ次回、最終回である。

続く
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「桃太郎+官能小説」 第三話

「ヨッ、桃から生まれた桃太郎!!」

と声をかけられれば、ニヤニヤしながら「へぇそうでやんす」と答えるほかない自らの宿命に、桃太郎(4)は、嫌気が差していた。

だから鬼退治に行くことにした。

早速その旨をでんじろうとふじこに告げると、彼らは驚くやら喜ぶやら腰は抜かすわその拍子に色んな指を骨折するわでてんやわんやそのものだったが、どこから引っ張り出したのか、あか抜けない随所に桃がプリントされた装束一式と、「日本一」とヨレヨレの字ででんじろうが書いたのぼりを用意した。

だせーと思った。

しごく単純な話であるが、普通の人間であれば16歳~20歳くらいの年齢にあたる桃太郎にとって、「イケてない」と言うのは万死に値した。

やっぱりだせー

そう改めて思ったのは峠を越えようと山道に入り、最初の休憩をとった時のことだった。

ふじこが「道中に食うのだよ」と渡してきた包みを戯れに開いてみたら、中から出てきたのはきびだんごである。

昨日のおやつじゃねえか。

桃太郎にとっては、喉も渇く道中で表面にかようにたっぷりときびの粉がまぶしてあるこんなものをほおばるなんてのは、まじありえないことで、つうかそもそも桃太郎は桃から生まれた割には甘いものが嫌いだった。

そんな折。

大きめの犬だか狼だかを連れた、髪はこざっぱりとしたショートカットで、顔に赤いペイントと大きめのイヤリングをつけた少女が現れた。

桃太郎は直感した。

この娘は桃太郎に恋をしている、と。

それが高じてエロエロしい気持ちでここに出てきたのだ、と。

こうなったら桃太郎の妄想は加速するばかりであった。

ちなみにそのエロファンタジーはこんな内容である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

生まれてこの方ずっと山で獣たちと育ってきた少女ザン(推定17)は、同世代のどんな娘たちよりも猛々しく荒々しい、高枝切りバサミでヘアカットするような、まあそういう女だった。

だから「峠の山道」というこのシチュエーションは、彼女との攻防にはうってつけと言えたし、桃太郎は桃から生まれた割には気性の荒い方だったので、相手に不足なしといった所だった。

巨犬の遠吠えがゴング代わりとなった。

桃太郎はザンのまわしにまず右手をかけた。

次に左手を突き出し、両差しの形を取ろうとするがザンが繰り出したのはなんとローキックによる金的である。

執拗なまでのローブローの連続に、すぐさまコーナーに追いやられた桃太郎はたまらずクリンチ、からのテイクダウンを狙うが、グレコローマンなザンによるシャイニングウィザードからのスモールパッケージホールドにフォール寸前まで追い詰められ、たまらず白いアレを出そうとしつつも、「なんだかヌルヌルするよヌルヌルするんだよ」といった抗議が受け入れられることもなく、やや不正の臭いもする束の間の猪木・アリ状態を経て、地獄車や三角絞めといった古式ゆかしい技で攻められるうちヌルヌルもいつしか快感になり、よく分からないうちにレフェリーストップによるTKO負けを喫していた。

桃太郎は思った。

後ろ手にフリル付ブラジャーのホックを留めるザンの方がよっぽど鬼らしく、鬼退治などただの絵空事だったんじゃないか、と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

というようなものである。

そんな妄想に身震いしているうちに娘はどこかに消えていて、気付けば桃太郎はすっかり裸だった。

女山賊に襲われているショックを、エロファンタジーに自ら変換して紛らわせていたと考えることも出来るだろう。

その場に残されたのは、ださい装束とのぼりと・・・・その辺に転がってるきびだんごに群がる小動物たち。

桃太郎は考えるのも嫌だったので、その小動物たちを「ショー」と「ロン」と「ポー」と名付けた。

桃太郎が、困ったらこいつらを食料に、と思っていたのは言うまでもない。

続く
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「桃太郎+官能小説」 第二話

でんじろうの妄想をよそに、ふじこは川で洗濯をしていた。

これといって特徴のないつまらない洗濯を、ただただやっていた。
そういうつまらなさが、生まれも育ちも質素なふじこにとって「生きる」ということだった。

なので、上流から、トータルで見てかなり傷だらけの巨桃が、ざんぶらどんぶらゆっくりもったり流されてきたのには驚くというよりは興奮した。

だってこんな巨桃が流れてくるなんて普通じゃない。

→きっと上流では大変なことになっているはず。

→つまりそれはエロトラブルよきっと。

ちなみにふじこの妄想したエロトラブルの内容はこんな感じである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

早くに妻を亡くし、果樹園を営んでいたブチャラティ(78)は、娘のボチャミティ(59)がその夫のベチャルティ(82)にいよいよ愛想を尽かし、夜の賭場で知り合ったバチャメティ(94)に夢中であることを郵便配達の吉田君(17)に聞かされ、激怒した。

毎度毎度、父親の自分より年上の男ばかり選ぶ娘を咎めに彼女の家に向かうと、窓の外からもはっきりくっきり見通せる分かりやすさで、二人は既に交わっていた。

バチャメティは色が白く線の細い童顔の男で、悔しいが、実際の年齢よりも10~20歳程度若く見え、肌感がピチピチしているのが、悔しいながらも、窓越しにもわかった。

自分の娘がハレンチにいそしむ姿をじっくりと見ちゃうのはどう考えても禁忌だが、「咎めに来た」という父親としての大義が、ブチャラティをそこに留まらせた。

久々に見たボチャミティの裸はその、なんというか、ええっとそのうーんと、死んだ妻のビチャゲティ(享年61)にそっくりだった。

それだけでブチャラティの木製バットは、いつの間にやらゴリッゴリの、いわば阪神・金本の大腿筋の如くだった。

そして事情は窓のこっち(レフトスタンド)もあっち(ライトスタンド)も同じらしく、バチャムティのこけしバットもガチッガチの、いわばカブス・福留の臀部筋のごたるで、ネクストバッターズサークルにいながら思わず代打を申し出そうになったほどである。

だが、トゥーボールワンスティックからの4球目、ボチャミティのロッテ・渡辺を思わせる下方からの、あわや退場かと球場を一瞬ざわめかせた危険球は見事にバチャムティの一本足打法を封じ、「記録よりも記憶よりも実は恥辱にまみれたいっす」との名言を残させつつ、裏の攻防へと突入した。

「夜の走攻守が揃ってるよね」と各所で定評のあるバチャムティだったが、外野からのマリナーズ・イチローを思わせるレーザービームもいざボチャミティにバックホーム!となると今一歩届かず、その見事なバット捌きに連打を浴びると、自慢のIT野球が誇る勝利の方程式・JFK(準備・ファ●ク・金払う)なぞもはや意味がなかった。

結局、ボチャミティのつるりとしたバックスクリーンに並ぶおたまじゃくし達が、バチャムティのコールド負けと、その日のナイター中継が延長しないことを告げていた。

思わずブチャラティはあさっての方向に走り出した。

なんだか知らないけど、「永久に不滅だ」と思った。

そんな折、彼の果樹園でひっそりと育っていた巨桃が、こうした一連とは全く無関係にごろりと落ち転がり川に流れた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

というようなものである。

巨桃が落ちた話とエロトラブルの一件には、誰の目にも明らかなほど因果関係がないわけだが、巨桃を持ち帰り、既に包丁を手にしたふじこにはそんな細かいことはもうどうでもよかった。

ふじこは、何の迷いもなくその巨桃にズバッと包丁を入れた。

出てきたのは言うまでもなくギャアギャア泣きわめく赤ん坊であった。

正確にいえば、体の真ん中にすーっと一本の出来たての切り傷の入った、裸の赤ん坊であった。

血がドバドバ出たのは言うまでもないが、赤ん坊がなぜ泣いているのか、つまらない人生を送ってきたふじこにはサッパリだった。

続く
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「桃太郎+官能小説」 第一話

桃太郎第一話

でんじろう(85)は、妻のおふじ(70)が、密かに他の男と密会しているのではないかという疑念を取り去る事が出来ないでいた。

おふじは気立てが良く、自分にはもったいなすぎる女だとでんじろうは常々思っていたのだが、ひとたび疑念を抱いてしまうと、おふじの一挙手一投足が全て怪しく感じられ、万国の老人よろしく早起きをしてしまうのであった。

早起きと言っても、でんじろうの起きたころには、おふじは既に朝食の支度をしているのが常で、でんじろうはかまどで火を焚き汗を流しているおふじの背中にビタッ!とはりついた襦袢を見ては、下腹部のウィニーが噛み応えのあるシャウエッセンを経て遂にはチョリソー先生の異名をとるまでに至る成長物語を見届けつつ、二度寝するのが日課となっていた。

が。

ある朝のことである。

でんじろうはいつもの通り二度寝をし、朝食を食んで、柴刈りの仕事に向かうつもりだった。

だが、出かける直前に、「私は川へ洗濯に行きます」と言ったおふじの表情を仕事への道すがら思い出し、でんじろうは「はて?」と思った。

「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に」

傍から見ればそうとしか言いようのない状況がそこにはあるわけだが、洗濯を川にしに行くのは今に始まったことではない。

いつだって洗濯は川で行なってきたはずなのである。

なのに。

今朝のおふじは「行ってくる」とだけ言ったでんじろうに、わざわざ「川へ洗濯に行きます」と告げたのである。

これは怪しいではないか。

でんじろうよりも15年も後に生まれたおふじの肌の色つやが、でんじろうと同世代の女たちと全く異なっていることは言うまでもないが、でんじろうはぷっくらとした唇こそが彼女の魅力であると確信していて、どこぞの若造の、いつも目の前にあるチョリソー先生ではなく大味なジャンボフランクをほおばっている様を想像せずにはいられなかった。

そこまで考えが至ると、でんじろうは己の足が自然と川に向くのを止めることができなかった。

しかし、自分の知らない男とおふじがどんなまぐわいをしてきたのかしているのかしていくのか、という過去現在未来すべてをまたにかける壮大なエロ大河を夢想しながらだったので、傍から見れば「老人ののらりくらり」に他ならなかった。

ちなみにエロ大河、こんな内容である。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

おふじは、夫のでんじろうがいつもの様に山に柴刈りに行き、その背中を見送った後、そそくさと出かける準備をし、やや早足で川に向かった。

川近くのひときわ汚い平屋がおふじの密通相手でんきち(仮名・60)の住まいである。

でんきちはだれの目にも明らかなほどの荒くれ者だった。

褐色の肌に切れ長の目、横に広がった大きな鼻と拳が丸々入りそうな大きな口、太い首に厚い胸板、太い指先にはいびつに割れた爪がおまけのように付いており、爪と皮膚の間には泥とも血ともいえぬ黒ずんだ何かがこびりついていた。

そういう汚い男に、なぜだかおふじは惹かれた。

洗濯をしに来てるのに汚い男と関係し体を汚す、という禁忌も去ることながら、夫であるでんじろうに無い獰猛さ加減がおふじには塩梅が良かった。

でんきちはおふじが平屋に入ってくるや否や、飛びかかるように迫ってきて、着物を剥いだ。

脱がせた、というよりも、剥いだ、という表現がしっくりとくる、そういう乱暴さである。

すっかり全身を剥がれたおふじは、自分の全身が炭火で焼かれる肉塊のように徐々に火照り、でんきちの厚切りタンがねっとりと、肩ロースからサーロイン、ヒレを経て遂にはテールに至るのを感じ、負けじと搾りたてのレモン汁を塩ダレと一緒に滴らせつつ、黒々としたサンチュに赤ミソをまぶしてでんきちの口に押し込んだ。

意外にあっさりだな
栄養満点よ

などといった爽やかな会話が交わされた後、でんきちが自慢のリブロースを取り出すと事態は急転した。

おふじは骨付きスペアリブさながらの頑強さを誇るそれに、特製ダレには目もくれず豪快にむしゃぶりついたかと思うと、程なくして自慢の唇はデラデラ、でんきちはすっかり骨抜き、どころかユッケになっていた。

口元をお手拭きでぬぐいながら、おふじは網の交換を申し出た。

束の間の、焼肉パーティは終わった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

というようなものである。

でんじろうはそれでもなかなかのスピードで山を駆け下り、家を通り過ぎ、もうすぐで川にたどりつく。

だが、そのとき既におふじは帰宅し、包丁を片手に巨大なそれと対峙していることを、でんじろうが知る由はなかった。

続く
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