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肉布団京一の作文教室

(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第五話

ドレスを身にまとったシンデレラは、自分の美しさにとりあえず勝ち誇っていた。

この無敵感は、言葉に出来ない。

なので家の誰か所有のアニマル柄のつっかけつっかけて、外に出た。

魔女が何かを言っていたが、無視。

運良く、屋敷の前に止まっていたかぼちゃとかで出来てるメルヘンな馬車に何の疑いもなく飛び乗って、舞踏会会場に直行。

「・・・・・・・・」

思わず初めてのスケール感に言葉を失った。

そりゃそうである。

一介の女中であったシンデレラにとって、これまでに見た一番大きいものと言えば継母の乳輪・・・もとい、屋根裏に隠されている三女のスーチーが皆に内緒で買った西洋風性欲処理人形、通称ダッチボーイズの黒・・・もとい、丸々太ったかわいいドブネズミくらいなものだったので、誰が見てもまごうことなくキャッスルキャッスルしたキャッスルのあまりにも豪快なでかさに、何の意外性もなく驚いてしまったのだ。

そして入城。

で、なんとなく小粋に踊ってたら王子、登場。

王子の第一印象?

なんかチャラい感じ。

正直、そう思った

王子「君、いいステップ踏んでんじゃん。その靴どこで買ったわけ?マジアニマルってんだけど」

シンデレラ「わかる?アニマルヤバいよね」

王子「ヤバいよ。君のは特にヤバい」

シンデレラ「君、って呼ばないでくれる?マジウザいんだけどあーし、シンデレラつうの、よろしく」

王子「シンデレラ、いけてんなぁおい。おれ、王子。それ以上でもそれ以下でもないから、よろしくぅ」

シンデレラ「ちぃーす」

王子「よかったらさぁおれの、姫になんねぇ?」

シンデレラ「うわ、やっべ、これ帰んね―と、バレっしょ。バレたらヤバいっしょ」

王子「なあシンデレラ、おれ今何気にプロポーズしたんだけど」

シンデレラ「つうか、あーし帰んね。王子だっけ?おめぇ、もうちょい髪とか、パンキッシュにした方が、いいんじゃね?王子でサラサラ横分けって、今どきあり得ないっしょ」

王子「そ、そうかよ」

シンデレラ「じゃあ急いでっから、じゃあ」

シンデレラは、とりあえずダッシュで帰った。

つっかけ脱げても、関係なかった。

なんかよくわかんないけど、悪くない気分だった。

それがあの灰まみれの家から外に出たからか、ドレスを着たからか、舞踏会に行けたからか、この頃のあーしにはわかんなかったけど、この夏の全部の出来事が全てこっから始まってたってことだけは確かなんだ。

と、最後に突如として付け焼刃的になかばやっつけで、ケータイ小説ぽさをふんわり醸しながら、来週へと続くのであります。

続く
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(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第四話

目の前で母親が魔女コスに身を包んで佇んでいる現状。

わたくししばし呆然といたしまして、ただそれでも漫然と会話をはじめてみたのです。

「は、母上?ど、どう、なさったんです?」

「・・・いらん?」

「母上?」

「・・・いらん、かえ?」

「・・・なにをですか?」

「これ、その・・リンゴ」

「おリンゴですか?」

「お腹が減ったろう?」

「・・え、まあ、ええ」

「好きだものねぇリンゴがお前は」

「でもどうしたんですか突然?こんな森の奥に。虫とかいっぱいでお母様お嫌いじゃないですかああいった手足のやたらに多い生き物が」

「・・・背に腹はかえられない」

「絵にはらわたは描けない?」

「・・・背に、腹は、かえられない」

「てっしー、まだらに、枝臭い?」

「・・・もういい。とにかく、このリンゴをね、お前にやるから」

「あ、ありがとうございます」

「いいかい?くれぐれもよく噛んで、食べるんだよ」

「はあ」

「じゃあ、ね」

母上はよく見ればマントの裾をズルズル引きずって、すごすごと帰っていきました。

で、残された赤いリンゴの赤の禍々しさったらありません

悩みました。

いくら母上の言いつけだからって、ここまで見るからに怪しいおリンゴを進んで口にするのは気が引ける。

そこで・・・

白雪姫「ちょっと、ドワーフの皆さん、こちらにずらっと並んでくださる」

ドワーフ一同「なんですか」

白雪姫「これ見て、ほら綺麗なおリンゴでしょ」

赤ドワーフ「ほんとだー」

白雪姫「率直に聞くけれど、この中でわたくしのことを一番愛して下さってるのは、どなた?」

ドワーフ一同「・・・」

白雪姫「あら、どなたも愛しては下さってない?」

青ドワーフ「お言葉ですが姫様、我々の中で姫様を愛していない者などおりません」

白雪姫「あら素敵、じゃあはいこれ」

黄ドワーフ「なんですかこのけばけばしいのは」

白雪姫「おリンゴよ、剥いたから食べて」

緑ドワーフ「・・これは、ちょっと・・・なぁ?」

白雪姫「やっぱり、わたくしへの愛などその程度なのね」

茶ドワーフ「おれ、食べます」

白雪姫「ナイスよウンコ色!」

他のドワーフ「・・お、おれもー食べるー」

むしゃむしゃ食っておりました。

大層おいしそうに、むしゃりむしゃりとそれをかじる奴らを見て、わたくしも「一口くらい食べてみたいそこまでうまいのなら」と思うようになり、結局ドワーフたちをほぼ蹴散らすような形でその中に割って入り、おリンゴを一かけ齧ったのでした。

ぶぅぅーふぅーふぅーぅん

じょべりべじゅばじゅび!

とかまあそんな音を立てながら、白雪姫は泡吹きぃの目玉ひんむきぃの倒れました。

所詮ドワーフは怪物、白雪姫は人間だったのです。

もうとてもじゃないけど自分が救えるような状態にはない白雪姫を見ながら、ドワーフたちは思いました。

レイプOR埋葬

悩みました。

千載一隅のチャンスだとだれもが分かっていたからです。

ひたすら悩みました。

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・

悩んでるうちに紙幅が尽きてしまいました。

とりあえず、次回、ドワーフたちがふわっと活躍するぞ、という予告だけしておきましょう。


続く
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(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第三話

クソババアは何の躊躇もなく屋敷に上がり込んで、シンデレラの淹れた紅茶をすすっていた。

「あの、ご用件はなんですか」

クソババアはお茶請けに出したマフィンをかじりながらギロッとシンデレラを睨みつけながら言った。

「おおおおおおお前を食べるためだよ!・・・・あ、間違った」

「え?」

「いいいいいいいいや、その、えーと、お前、シンデレラだね」

「はあまあ」

「おおおおおおおお前の生き血を吸ってやろうか!・・・あ、間違えまくった」

たぶんだけど。

予想の話だけど。

このクソババアはこういう格好をするのはほとんど初めてで、キャラ設定が曖昧なのだ。

ここで当然の疑問がわく。

なんでその曖昧なキャラ設定でこの屋敷に乗り込まにゃあならんかったのか、と。

聞いてみた。

「で、なんですか?私も私なりにそこそこ忙しいんですけど」

「ヒッヒッヒッ」

「ズカズカ上がり込んで、失礼じゃないですか」

「ヒッヒッヒッヒッ」

「あなた大人でしょ、大人の女でしょ!」

「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ」

バン!

ズゴバン!!

ズリヒャボドッチンカン!!!

概ね3発、シンデレラはクソババアを、手元にあった次女のアラファトのコルセットで、殴打した。

クソババアは怯んでいた。

怯みながらも、言った。

「まままま」

「はい?」

「まままままままま」

「なんですか?」

「まままままままままままままままままままままままま」

「ぶちますよ」

「まっ・・・魔女あんぢゃお」

恐怖とは、時に老婆の長年培ってきた言語感覚すら狂わす。

シンデレラは念のため聞き返した。

「魔女なんですか?」

「・・・・はい」

「・・・・で?」

「・・・・・へ?」

「だから・・・・で?」

「ど?」

「ど?じゃないですよ。魔女なんですよね?」

「はい」

「で?」

「・・・・ぼ?」

ジョン!

ジョグリン!

ジョッゲレンダリュホン!!

今度は長女のマンデラの胸パット×2を巧みに操ってアタック。

クソババアはすっかり憔悴。

でもこれで魔女なのだ。

「何しに来たんですか?って聞いてるんですけどさっきからずっと」

「・・・・」

「怖がらないで。私は単なる女中よ」

「・・・・」

「さっきまでの暴力については謝るわ。ごめん。私もちょっとどうかしてた」

「もももももももももう、ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶたない?」

「もちろんよ。私、年上には普通に敬意を払うタイプだから」

「シンデレラは、ぶぶぶぶぶぶぶぶと」

「ぶと?」

「ぶぶぶぶぶとうかいには、いかないの?」

「ぶとうかい?・・ああ舞踏会ね。何言ってんの、私が行けるわけないじゃない」

「いいいいいいいきたくないの?」

「行きたくないかって?行きたいか行きたくないかが問題なんじゃないの。行けるわけないって言ってるの」

「どどどどどどうして?」

「女中なのよ私。汚い汚いドブ女中、ドブから生まれたヘドロ女、ヘドロの国からやってきたスーパー汚物ギャルその名もシンデレラ、なのよ。舞踏会なんて・・・ドレスもないし」

「どどどどどドレス?じゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃじゃあ、ドレスがあれば、行きたい?」

「そりゃ・・・まあ人生経験の一環として?行きたくないこともないけど・・・まあいつかはね。・・・・あああ!!!もしかしてあなた!?」

「いいいいいいや、あの、私そういうタイプの魔女じゃないんで、そのドレス出したりって言うのは出来ないんですけど」

「なんだよ。期待させんなよバカクソゴミ」

「でででででも、洋裁得意なんで、作りますよドレス」

「ほんとに?」

「はははははい、お茶いただいたんで」

「あんなに殴ったのに?」

「ままままままあ、私が悪い部分もありましたし」

「あーーーでも、あれだ、生地無いわ。勝手に使ったらほら、絶対バレるよアホマヌケ汚泥」

「そそそそそれは、魔法でどうにでもなりますよ、生地だったら」

「生地は出せるんだ」

「ももももももちろん」

「・・・・ううん、まあよくわかんないけど、よろしく」

「ここここちらこそ」

というわけで、シンデレラは吃音丸出しの、能力もなんかまばらな印象の魔女と一緒にドレス作りに着手した。

で、完成。

性格と暴力衝動を取り除いてしまえばただの美女だったシンデレラは、ドレスを着ればそりゃまあいい感じだった。

ドレスを着てクルクルと回って見せる、ほのぼの気分全開のシンデレラとそれを見て顔面しわくちゃにして喜ぶ魔女なのであった。




・・・・・・・・・早く行けよ、舞踏会に!



(続く)
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(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第二話

わたくしは白雪姫。

名前の通り、完全に姫。

父上はわたくしが生まれる前になんか馬のトラブルで死んじゃいました。

母上は自称魔法使いです。

彼女にしか見えない魔法の鏡にしゃべりかけては、自分より美しい女を探す日々を私の物心がついたころからずっと、送っています。

ほとんど魔女ですね。

母上の美への執着は凄まじかったです。

ドホモルンリンクル的なものはもちろんのこと、ヒジャモケッチャナムルンとか言う無名の薬草取りに断崖絶壁まで行ったり、ロデオマシーンの存在を知るや否や馬車馬で試したり、まあ要するに彼女の生き方そのものがビューティコロシアムでした。

そんな母上は、鏡が「お前より美しいのはお前の娘だ」と言ったとわめきちらし、パニックしパニックしパニックし尽くした後、わたくしを城から追放しました。

姫なのに。
あぁ姫なのに。

身一つで城から放り出され、森の中をさまよっていたわたくしに、救いの手を差し伸べたのは、小さなドワーフたちでした。

新手のナンパかしら。
それともキャッチ?

そう思わないではいられなかったのです。
でも違いました。

だって彼らに私の貞操を奪取することなんて出来る筈ないもの。
彼らの体のサイズが、そこから推測される生殖器のサイズが、その事実をはっきり物語っていたんだもの。

でもなんなのかしらこのちんちくりんたちは。

一度疑い始めると想像力がとどまることはありませんでした。

彼らは夜になると何らかのモンスターにでもなるのではないかしら。

激怒して眼が白くなり皮膚が緑色に変色し筋肉が盛り上がって着ていた服が裂け巨人に変身するとか、まあそれは私が好きな超人ハルクだけど、悲しみの巨人・超人ハルクにかつがれてわたくし諸国漫遊の旅路につくのだわ街とか文化遺産とかを無造作に破壊して人々の嫌悪な視線を全身くまなく浴びるのだわそうよそうなのよそうに決まっているのだわよきゃあああーーー!!!

・・・でも、元々深く悩んだりしない性格のわたくしは、七人のドワーフとの小粋な会話でそんなことはすぐに忘れてしまいました。

赤ドワーフ「姫、ご飯は何食べます?」
白雪姫「グラタン」
青ドワーフ「グラタンはちょっと・・・材料の関係があるもんですから」
白雪姫「じゃあピザ」
黄ドワーフ「チーズがね、ないんですよぉ」
白雪姫「ピザ」
緑ドワーフ「姫?聞いてますか?チーズがちょっとご用意できないんですよ」
白雪姫「誰?」
茶ドワーフ「なんですか?」
白雪姫「誰のせいなの?チーズがないのは」
黒ドワーフ「・・・いや誰のせいと言われましてもねぇ」
白雪姫「お前が悪いのか?」
白ドワーフ「いえいえ、そんなことないです」
白雪姫「七人並んで。歯食い縛ってくれる」
ドワーフ一同「ひぃぃぃぃぃぃーーーー」

夢のような毎日。
たいそう楽しかったわ。

でもそういうのってあんまり長く続かないものなのよね。
わたくしの場合もそう。
突然の出来事に、いろいろが溶けていっちゃうことって、あるよね。

週明けの月曜日。
変装丸出しの母上が、なぜだか魔女っ子のコスプレを身にまとった姿で玄関先に立っていたあの朝が全ての始まりだったのです。

続く
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(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第一話

あたしの名前はシンデレラ。
完全に孤児。

ママはあたしが生まれる前に事故で死んだ。
パパはあたしが2歳の時に女を作って失踪。

みなしごになったあたしはすぐに孤児院に預けられ、6歳の時に今の家に召使として引き取られた。
それからのあたしの人生の停滞ぶりったらなかった。

「シンデレラ、なんだいこれは。わたしにこんな埃まみれの履物で外へ行けと言うのかい?」
継母が鬼コワ、これはまあ常識。

「あらドブネズミが鎮座してると思ったらシンデレラじゃないか汚いねぇ」
「ほんとだ汚泥がにじり寄って来たと思ったらシンデレラじゃないか吐きそうだよ匂いで」
継母の娘たちからのいじめ、こんなの当たり前。

「お前にこんな布切れもったいないわ剥いでやる剥いでやるって!」
「ぎゃおー」
継父が肉体関係を迫ってくる、これもまあよくある話。

とにかくそういうつまらないアンハッピーを全身で背負いながら、毎日をただ淡々と鬱々と過ごすのが、あたしの日常だった。

あの日だっていつもの通り、そうなるはずだった。

「シンデレラ!シンデレラ!」

継母の、鼻に引っ掛かった嫌味なダミ声が屋敷中に響いた。
あたしは急いで階段を昇り、継母一同がいる食卓に向かった。

「おやおやシンデレラ、今日も黄ばんだドレスがとってもお似合いで」
「あらお姉さま、火であぶったスチールウールさながらにチリッチリの黒髪もセクシーですわよ」
「いえいえ何と言ってもスラっと伸びた指先の爪の黒ずみが炭坑夫を思わせてたくましい限りよ」

継母の娘であるマンデラ、アラファト、スーチーの三姉妹が今朝も全開だ。

「こらあなたたち、大事な召使いをそんな風に言うんじゃありません。こう見えても週給20ザビエルの高給取りなんだからねムホホ」

継母も不敵な笑みを浮かべながら嫌味を言う。

「お母様、20ペリーの間違いじゃないですか?20ザビエルって、イヤリング片耳分だって買えませんわ」

そりゃそうだ。
正確にはそこから源泉徴収で2ザビエル、国民年金で3ザビエル29イエズス引かれた上に食費や光熱費も払わされるので、出来ても市場でカラフルなヒヨコ買うくらいなもんだ別に絶対全く買わないけど。

「奥様、ご用件はなんだったでしょうか」
「シンデレラはせっかちねぇ、小粋なトークを楽しんだりする余裕はないのかしら」

余計な御世話だよばばあ。

「私たち、今日、お城で舞踏会があるのね。それでシンデレラには私たちのお召し物の用意と馬車の手配をやってもらいたいの。出来るわね?」
「はいかしこまりました」

舞踏会か…

「じゃあ行ってくるわねシンデレラ、旦那様以外にお客が来ても絶対に扉を開けてはいけませんよ」
「そりゃそうよお母様。私たちのような美女が出てくるならまだしもこんなヘドロが服着て歩いてるみたいな女が目の前に現れたら、誰でも卒倒しますもの」
「言いすぎよマンデラ、ヘドロなんて。ムホホ。じゃ行きましょ」

馬車はカポカポ音を立てて、小道をゆっくりと進んで行った。

まあなにはともあれ、これで束の間の安息が訪れるのだわ、とシンデレラは胸をときめかせていた。

ピンポーン。
・・・・
ピンポピンポーン
・・・・・・・
ピンポピンポピンポピピピピピピンポーーーーーン

しつこいぞバカやろう。
シンデレラは空気の読めないガサツな糞野郎に、インターフォンの正しい押し方を教えてやると言う名目の一喝を、ビシバシ浴びせかけてやろうと玄関に向かった。

ゆっくりと扉を開けると、そこにいたのは「醜女(しこめ)」の名を欲しいままにするクソババアだった。

続く
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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第四話(最終回)

カニ兵衛がこれまで登場してきたどれともはっきり異なっていたのは、蟹離れしたたくましい精神力だった。

一言目からそれは際立っていた。

「私がここで語るべきはただ一つ。今回の件に関する真相です」

そしてこう続けた。

「事件の概要としては、ゆめたろうさんが囲炉裏で火に当たっていると、火中のクリントンが飛び出してきて顔にぶつかり、冷やすために水を探してたらビーリー・ミリガンが尻を刺し、外に逃げようとすると屋根からウス吾朗が飛び降りてきて圧死させた、と言うことでよろしいですよね?」

うんそう聞いているぞふむふむ、もっと聞かせたまえほらほら。

「結論から言いましょう。私が個人的感情から誰かを殺めるなんて、考えただけで泡吹いて卒倒しそうになります」

なるほど。つまりあれだな、君は無罪を主張するんだなむほ~ん。

「はいそうなります裁判長」

あれ、心の声なのに。

「私の全てを分かっていただきたい。あなたならきっとそれが出来るはずだ」

勇ましくそう言い放ったカニ兵衛に、私はヒトと蟹と言う種族差を超えて胸の奥がむずむずするような筆舌に尽くしがたい感情が溢れ出てくるのが、止められなくなっていた。

それから閉廷まで、何が起きたかなんてほとんど覚えていない。

ただはっきりしているのは、検察側の思惑にも弁護側の思惑にもそぐわない結論を、私がもうろうとする意識の中、必死で出したと言うことだ。

検察側の求刑は被告人全員の死刑であったわけだが、やはり直接手を下しとどめをさしたウス吾朗以外にその罪は重くしよっ、と判断し、ウス吾朗は普通に死刑で、ビーリー・ミリガンは島流しの刑(親との別離をやむなくされた彼が、必死で親を探すこととなり、そのエピソードを基に作られたのが『みなしごハッチ』であることは有名な話)、クリントンにはデパ地下での永年勤務の刑(そこで気に入られ、パートのおばさんのちょっとした悪戯でもち米と混ぜられた結果、偶然生まれたのが『栗おこわ』であることは有名な話)が科せられることとなった。

そして、カニ兵衛・・・・無罪。

とみこは呆然として顔を赤らめ尻をぼりぼり引っ掻いていたけれど、あたし彼を裁くことなんてできない。

そう思ったらもういろんなことがどうでもよくなっちゃった。

だからあたし決めたの。

この胸のドッキドキが収まるまで、どこか遠くへ行こうって。

カニ兵衛さん。

あなたはやっぱ、有罪よ。

だってあたしのハートをチョキチョキしたんだから。

あたしにたとい軟禁されても、文句言わずにズビズバ答えなくてはならない、の刑よ!

あたしはこうしちゃいられないので、とりあえず閉廷して、ゆったりとした足取りで席を離れながら、ちょっとした違和感を覚えた。

なんでこんなにあたしの靴の裏側の主に右方面から、獣の排泄物に似た悪臭がするのだろう、と。

足を上げ匂いの原因をこの眼で突き止めようと一瞬思ったが、すぐにやめた。

あたしは変わるんだ。

すぐに何かの理由を、論理と正論で突き詰めるようなそういうつまらないことはもうしないんだ。

あたしは裁判所の赤絨毯に茶色い臭い何かをまき散らしながら、底抜けの笑顔で外に出た。

ああなんてまぶしいのかしら、世界。

このまぶしさで、ご飯何杯でもいけるわよ!!!

あたしは実際にそう声に出して、ついについに、蝶になったのでした。



つうわけで・・・・・・・

めでたしめでたし!!
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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第三話

ビーリー・ミリガンとクリントンは、ごくごく平均的な大学生に見えた。


週に一、二度の飲み会には律儀に顔を出し、単位のこととサークルのことと時折やってくるロマンスに胸躍らせる日々の中、いつの間にか就職活動が始まって流れ流れて会社員になる、というような運命にさほど違和感なく順応できるタイプの連中だ。


どんな相手も大体見た目で判断し尽くしてきた経験測で、私はそう感じていた。


そして、結果としてその読みは大体当たっていた。


ウス吾朗が退席した後、ビ-リー・ミリガンとクリントンは仲良く証言台に立った。


そして謀った。


端的に言えば「裏切り」と言うアレだ。


ビーリー①「なんつうか、おれたちみたいなちょこざいな大学生レベルが、自分たちだけの力でこんな大それたこと出来ないしぃ」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー②「私共としましては、ねぇ?あのー何の気なしにカニ兵衛さんに連れ立っていってみたらですよ、なんだか、ねぇ?あれよあれよと言う間にこんなところにお邪魔してて、びっくりしてるんですよぉ、ねぇ?」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー③「拙者、ゆめたろう殿には大変なご無礼を拙者が働きましたこと、深く拙者お詫び申し上げたい」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー④「ウフフ、あたしたちぃ、もうこうなったらって感じで言わせてもらうんだけどぉ、オッフフ、私たちが全然悪くないんだぞってことをまとめた証拠、もってきちゃってて、これ提出しまぁす」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


視界に入った検察官のポン太が、下品に笑っていたので私は察した。


この裁判で身を持ち崩したくない奴らとポン太の間には、何らかの契約が取り交わされており、ビーリー・ミリガンが、「イヤッホーこれだぜーみてみろよロケンロール」とか言いながら、次の人格を模索しつつ提出してきた証拠は、「自分たちが戦地でボランティアをする写真(しかし明らかに合成)」、「署名(だがどれも親類縁者)」、そしてその書類の間には20000円(10000円×2という考え方なのだろう)が挟んであった。


私は迷うことなく20000円をビーリー・ミリガンに突き返し、証拠の不受理を決めた。


検察官のポン太が苦虫をギリギリ噛み潰しながら悔しがっているのが見え、ウス岡がほっと胸を撫で回しているのも分かった。


周到に準備してきたようでまったく配慮の行き届いていないこうした詰めの甘さが、おそらくはこの裁判のグレードをはっきり物語っているようで嫌気もさしたが、ここで投げ出すわけにもいかないし、やる気が削がれてきてはいるがそれなりにきちんとまとめて決断をしなければならないのが自分の仕事である。


さっきから喉元に絡みついて離れない痰をようやく咳払いしがてら吐き出して、誰にも見られないように死角で、指先についたそれをペチョペチョやりながら、遂にやって来たカニ兵衛が証言台に向かうのを見つめていた。


そして、なんだかんだで、戦いは最終局面を迎えていたのである。


続く(次回、戦慄の最終回!)
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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第二話

プロである私の目から見て、まず初めに論争の焦点になるのは、カニ江の死が事故だったのかどうかについてだろう。


・・・・


・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?


すまない。


ぞろぞろと入場する弁護側の顔ぶれを見て、声もなく驚いてしまった私だ。


弁護士の親臼(ウス岡)を先頭に、今回の被告であるカニ兵衛、蜂(ビーリー・ミリガン)、栗(クリントン)、子臼(ウス吾朗)、牛糞(ウンコ)がそぞろ歩いてやってきた。


「オールスター」という言葉が一瞬だけ脳裏をよぎったが、すぐにたち消えた。


色々この集団を手際よく括る愛称を考えてみたが、結局私は「今日、なんか祭りなんだ」と思うことで決着をつけた。


・・・・・・・・・・・!!??


あ、ああすまない。


検察側の求刑が、まあ予想通りと言うかなんというか「死刑」だったもので、ちょっとぼうっとしてた。


それも被告側全員の死刑を望むそうだ。


そうして検察側の冒頭陳述が終わり、早速、ウス吾朗が証言台に立つ。


ウス吾朗は臼だが、おそらくは昨日、父親のウス岡とみっちり丹念に練習を重ねたであろう証言を、淀みなくすらすらと述べていた。


まず、カニ江への渋柿攻撃は、はっきりと意図されたものであり、そこに殺意があったのは間違いがないということ。


そして、自分たちがカニ兵衛と結託してゆめたろうへのリベンジを決行したという話は、検察側のでっち上げたシナリオに他ならず、というのもその当日、むしろゆめたろうこそがカニ兵衛を襲撃しようとたくらんでいて、それを見破った自分たちによる正当防衛が、結果的にゆめたろうの惨殺につながってしまった、ということ。


ゆめたろうには悪いことをしたと思っているが、大前提としてゆめたろうのような悪猿に迫られたら普通に怖いじゃないですか、と、汗で落ちそうになった銀縁眼鏡を器用に臼の縁の部分で持ち上げながら私に訴えた。


その証言はどの証拠と照らし合わせても、妥当なものであり、更に言えば、非常に残念な話ではあるのだが、ゆめたろうの常軌を非常に逸した外見が、今回の一件に関して、非常にゆめたろう自身にとって非常に不利に非常に働いているというのは非常に間違いがなかった。


私も彼の遺影や現場での死体写真でその風貌を確認したが、ここだけの話、生前と死後の写真の区別が全くつかなかった。


生きながらに死んでいるとでも言えばいいだろうか、まさに「これで死んでるんだぜ」を地で行く、そういうリアルかっちゃんだったのである。


司法が、ある個人の顔面を根拠に揺らぐようなことがあっては決してならないことは百も承知であるが、そういう大前提を覆しかねない神の悪戯が、確かに眼前に現前しているのだという事実だけは是非とも覚えて帰ってもらいたい、いや、出来れば帰ってほしくはない。


・・・☆∂◆¢£§ΞЁ㍽Ж¥鬱¶≠!!!???


ああ、言葉にならなすぎて、つい呪詛ってしまった。


こんな理路整然としたウス吾朗の証言に対し、検察官(ポン太←これでも人間)は、「検察側の質問はないです!」と高らかに言い放った。


死刑を求刑しているのに検察側が最初の被告人質問をスルー。


私は察した。


この裁判には何かからくりがある。


そして気づいた。


今のところ、私にはその正体について、皆目見当がつかないということを。


そしてその謎を解くカギは、いま眼下で震えわなないている大学生の二人、ビーリー・ミリガンとクリントンが握っている。


ということにしようと、筆者はいま、なんとなく思っている。


続く
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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第一話

  • 2009.03.25 Wednesday
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世の中というものはどこまでも醜い。


だが人一倍正義感の強かった私が、裁判官と言う仕事を選んだのはその醜い世界にも「やり直し」が有効なのだという信念があったからに他ならない。


あった。


そう。


確かにあったのだ、あのときまでは。


事の始まりは、法廷に現れた原告が人間ではなく親猿(とみこ)で、ビッチョビチョに泣き濡れていたあの日まで遡る。


とみこが説明した事件の全貌はこうだ。


とみこの一人息子である子猿(ゆめたろう)は、近所でも有名なやんちゃ坊主で、その日もやんちゃにやいのやいのと野外で遊び呆けていた。


そこに現れたのが、蟹(カニ江)だ。


カニ江はなぜだかおにぎりを持っていて、遊び相手が欲しかったゆめたろうは何とか理由をつけてカニ江に話しかけようとし、その辺に落ちていた柿の種を拾って、「交換しようぜ」と持ちかけた。


カニ江は拒否した。


おにぎりと柿の種の交換が割に合わなかったからではない。


ゆめたろうの風体が気持ち悪かったからである。


トータルで14点だ、とカニ江は思った。


禿げあがった頭頂部は勿論、全身の毛がまばらであることやぎょろりとした目が何を考えているのか分からない、というのもかなりその採点には影響していた。


ああやっぱり2点だ、とカニ江は採点をし直した。


日増しに点が下がっていくような、そういう気持ち悪さがゆめたろうにはあった。


が、結局、交換には応じることになった。


気持ち悪すぎて、もはや言葉のやり取りをすること自体に嫌気が差してきたからである。


おにぎりを失ったカニ江は、あんな野郎の手垢がついた柿の種を手元に置いておくのは嫌だったので、すぐにそれを埋めやった。


そしたら育っちゃった。


育っちゃったものは仕方ないので、収穫に踏み切ろうとも思ったが、いかんせんカニ江は蟹だった。


蟹であることをこんなにもおぞましいと思ったことはなかった。


カニ江がたわわに実った実をただ見上げるだけの、つまらない毎日を送っていたある日、ゆめたろうが再びやってきた。


ゆめたろうは猿だ。


猿は木登りだ。


そしてゆめたろうはさっさか木を登り、柿の実をがしっと、その手で器用に採って見せた。


だけどゆめたろうは素直になれない。


一人っ子だったからですか、母子家庭だったからなのですかと、とみこは泣き叫ぶ。


理由はどうあれ、ゆめたろうの口から出てくる言葉は意地悪なものばかりだ。


そして一つ目の事件は起こった。


得意なはずの木登りも、初めて友達が出来るかもしれないと気持ちが浮ついていては、し損じる。


足をトゥルリと滑らせたゆめたろうは、地面に落ちそうになるつかの間になんとか体を翻し両腕をとっさに枝に引っ掛け、運良く転落は避けた。


だがその際の強い振動によって、柿の実(それも全く熟していない)が落ち、カニ江に強かに当たった。


当りどころも悪ければ、そのタイミングも最悪だった。


カニ江は臨月だった。


そして柿の実が当たったショックで生まれたのが子蟹(カニ兵衛)である。


そしてカニ兵衛は現場の状況を後から聞き、激怒した。


状況証拠からゆめたろうが犯人であることは容易に想像ができた。


そしてかの復讐劇が巻き起こったのである。


とみこは言った。


「ゆめたろうが何をしたって言うんですか。あの子は何にも悪くありません、なんとしてもゆめたろうをあんな風にした本当の犯人を捕まえてください」


それがとみこの強い願いだった。


私はそれを静かに聞き、獣臭や生臭さ、普通にうんこの匂いとかもするこの法廷で、自分なりの正義を貫く決断をした。


こうして、私の長い一日が始まったのである。


続く
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かぐや姫+SF小説 第三話(最終回)

ヤマデーブゲッリヤマデーブゲッリヤマデーブゲッリ、オマ デーリゲルンパ(芋を煮たい芋を煮たい芋を煮たい、そして食いたい)
マルセル・プルースト『コンビニライフにぞっこんだぜ 第9巻』


大変なことが起きるきっかけと言うのは概してくだらないものだ。

ボリンガ星史を振り返ってみればそれは一目瞭然で、星中を巻き込んで1000年以上も続いた第三次モウタイ大戦争は、ダッデム国王43世がフェデリク湖岸で暗殺されたのがきっかけで、その暗殺を企てたのは第3側室のビラーデル姫であり、その決断に至ったのは国王が姫たちに配ったカシューナッツ(この星で言う所の羊羹)の大きさがまちまちであったばかりか、セメント(この星で言う所のお茶)はぬるく、箸休めとして用意されたじゃがりこ(この星で言う所のじゃがりこ)があまりにも堅かったことに腹を立てたその日が、観測史上最も暑く湿度も高くイライラジメジメする日だった、という理由からである。

かぐや姫が巻き込まれることになったボリンガ星VS地球の全面的大戦争、「ボイヘレンの乱」のきっかけは、そのえっとなんていうか・・・帝の恋心であった。

帝くらいになっちゃうと、世の中に自分の言うこと聞かない奴なんてまあいないわけだが、かぐや姫にはそれが通用しなかった。

だってノット地球人だから。

帝と会い、帝にアドレスを聞かれ、面倒だがしつこいので教え、帰りの道中にもう連絡があり、長文で、すんごい長文で、簡単にいえば「好きっす」ってことで、あーかったりぃ、と思ってる間に、もう次のが来、だりぃだりぃと思ってる間に、どうにか帰宅し、それからというもの、とにかくしつこくやってくるその連絡に、うんざりぐったりしつつ、でも時には返し、すると信じられない速さで信じられない分量の返事が来、やっべえこれドロ沼、ドロ沼ラビリンスっしょ、とか思ってたら、なんか涙出てきて、なんかもう止まんなくて、着物ビッショビショで、重くて、いいやもう寝ちゃお、と、思ってたら、空のあっちの遠くの向こうの方から、来た。

お迎えが、来た。

あれだけ待ってたものが、本当に現れたときのリアクションなんて、たかが知れている。

んあー

かぐや姫から実際に出た言葉はそんなもんだった。

んぽー

と言いながら立ち上がり

んきゅー

と言いながら老夫婦に事情を話し

んんどばーじゅらっちゃんーぎゅりどふぇん!

と言いながら明日お世話になった人にあいさつ回りをしたのち、ボリンガ星に帰ろう、と心に決めた。

でも帝はどこまでも粘着質な奴だった。

かぐや姫のそうした事情を耳にした途端、軍勢を率い、かぐや姫を腕づくで我が物にしようとした。

ボリンガ星人たちにとって、「送りこんだ娘がそこでモテちゃう」なんてのはまあよくある話だったので、戦の準備はあった。

あったが、いつもとは事情が違った。

つい先日のことだ。

ボリンガ星の現国王イポリン8世と、彼の第11側室マッタイン姫の長女ジュリトン姫との間に子供が出来た。(こんなこと覚えてる人は皆無だろうが、第11側室マッタイン姫はかぐや姫の母親であり、ジュリトン姫はかぐや姫の姉である。そして側室の娘と国王が通じてたなんてのは万国共通・言語道断のタブーである)

このスキャンダルを受け、イポリン8世は「自分は誘惑されただけだ」とコメントしたため、瞬く間にマッタイン姫とジュリトン姫の処刑が決まり、つい先頃、執行された。

つまり、かぐや姫はもう地球にいる理由がなくなったから、もう姫でも何でもないから連れ戻されるのである。

そうとは知らず故郷に帰れることをやみくもに喜ぶかぐや姫、それを何とか阻止しようと励む帝、詳しくは聞かされてないけどとにかくかぐや姫を連れ戻さないと自分が何をされるかわかったもんじゃない、下っ端ボリンガ星人たち。

この微妙にずれた三者の在り様こそが、「ボイヘレンの乱」が不必要に長引いた一番の原因である。(余談だが、ポップラー波を銃口から放つ最新式のヨンヨンレーザーガンに対し、竹槍を担いだ軍勢が、案外健闘したことで、ボリンガ星では竹に似たヒッテレの再評価がこの戦争をきっかけに進んだのは有名な話である。)

結果的には、下馬評通り、ボリンガ星の圧勝に終わった。(余談だが、この戦争で唯一犠牲になったボリンガ星人であるイクリナス・エモ・ダンビダンビ・ルーネンバーの死を悼む、という名目で作られた「エモ公園」は、先ごろ、ホームレスや暴走族の溜まり場と化し、風紀を乱しているから無くせという住民の声があまりにも多かったため、完全に消滅した。今は、彼の故郷であるベッシラ駅前に「竹槍に串刺しにされたエモ・ダンビダンビ像」だけが寄贈され、若者たちの待ち合わせ場所として使われている。)

帝はそうなるといともあっさりと手を引き、何事もなかったかのように「ちん、ちん」言っていた。

老夫婦もまた、何事もなかったかのように、老夫婦らしい背伸びをしない生活に戻っていた。

かぐや姫は・・・・心弾ませていた。

ボリンガ星の言葉で「希望」と言う意味を持つ「サトーン号」の窓から見える円形の宇宙を見つめながら、これからの自分にわけもなくわくわくしていた。

思わずこんな詩を、曇った窓ガラスに書いていた。

ク デレーオラ イヴェデンサ イオ ポムニ オリ オリタ ラッパエス

もちろんこの時のかぐや姫に、星に戻ってから自分の身に降りかかる運命など想像することすらできなかった。

彼女にできることと言えば、ただぼーっとして、なぜだか流れてくる涙を拭きながら、少しずつ遠ざかっていく地球を見つめることくらいだったのである。

はい、めでたしめでたしですね。

かぐや姫+SF小説、完。
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