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アーカイブ: 2009/07

『新しいむかしばなし』連載終了のお知らせ

  • 2009.07.08 Wednesday
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振り返ろうと思う。

ネットテキストなのに、分量とか行間のみっちり感が厄介だった連載であることはとうに分かっていた。

しかしそれを分かっていながら止められなかったのは、アイデアが次々あふれ出るからである。

これを見てほしい。

momo
        ≪桃太郎≫


私は、どんな物語を書く際でも必ず、こうした入念でかつ綿密なイメージ画像を描き、そこから作品世界を構築する。

こうした試みの裏側には、私が小説を書く者である以前に、絵を描く者として活動してきた、自身の半生が色濃くあるといえるだろう。

一たび筆をとれば神童だのなんだのとあげつらわれて生きてきた私にとって、何かを描くことは、バケットをかじることや、そのバケットにハムやチーズを挟むことや、そのバケットが最後には糞になり糞をひる時には得てして尿が出てしまうことと同じくらい、要するに必然的なことだったといえる。

だから私はこういうものを描いた。

かぐや
        ≪かぐや姫≫


「書くために描くのではない。お金が欲しいだけなのだ」、という私の往年の名言が、どれほど君たち庶民に伝わるのか、はなはだ疑問ではあるが、ひとつだけ言えることはつまり、私にとってこの「新しいむかしばなし」という連載は、ひとつの生きる糧であったということだ。
その証拠がこれである。

さるかに
      ≪さるかに合戦≫


作品には作家自身が投影されるとはよくいったものだが、今回を含む全24回が、私の分身であることはこれを見ればよりくっきりと分かるはずである。


しんでれ
   ≪白雪姫VSシンデレラ≫


しかしまあ、こうした作業で私は消耗するのである。
ゆえに今回で、この連載はひとまず終了。

私が描くのを得意とする世界的な人気者の肖像画をもって、最後の挨拶とかえさせていただきます。

みっきー
      ≪舞浜においでよ≫


肉布団京一
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(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第十一話(最終回)

シンデレラが部屋に入るために扉を開け、そこを白雪姫の面影乏しいなんか気持ち悪いの、が急襲する。

咄嗟に反応したシンデレラは、召使時代に暗闇での小動物への対応などで培ったその俊敏さで、毛むくじゃらで香ばしさと生臭さの同居したにおいを発するそいつの、うでぃおー、とか、めじゃれー、とか言いながらのタックルをぴゅいっと、かわす。

なぜかそのタイミングで再び、不自然に、扉は閉まる。

密室に二人。

タックルのどさくさにまぎれて部屋からの脱出をも考えていた白雪姫としては、もう何が何やらという感じで、ていうかこいつ綺麗な格好して腹立つんですけど、と、シンデレラを睨みつけ、そもそも二人で仲良くやっていこうなんて到底思えなかったし、なによりシンデレラ、かなりの臨戦態勢に入っていた。

シンデレラはシンデレラで、アドベンチャーの最中に不意に入った部屋でこんなのに襲われて、元々の育ちの悪さもあるし、おいそこのその汚い奴なんばしよっとね、という素直なむかつきもあり、結果的に、猛々しい眼差しでファイティングポーズをとるような、体の温まりきったファイターあとゴング待つだけ、という、そういうことに落ち着いていたのだ。

カーン。

なんか、鳴った。

女性同士のガチの喧嘩を実際に目の当たりにしたことのある人は分かるだろうが、最初に行われるのは大体が髪や服の引っ張り合いである。

引っ張り合ってなにがしかの優劣がついたところから、奇声を発しながら引っ掻いたり、マウントポジションから引っ掻いたり引っ掻かれたり、あとかじったりかじられたりかじられてもかじったり、あと引っ掻いたり―あれをキャットファイトと最初に命名した人は天才―まあ色々あって決着というのが、女子校の放課後に体育館の裏などで一年を通じて季節を問わずによく見られるタイプの女の決闘であり、今回のこれもそういう類のものだったと言っていい。

結果。

白雪姫、完膚なきまでにやられる。

今の見てくれはどうあれ、そもそもが姫である彼女はこうしたシビアな「争いごと」とは鋭く無縁だったわけで、それに引き換えシンデレラは今の容姿はどうあれ、そりゃもうウルトラハードな日々を送って来たのであって、そうした日常が育んできたたくましさには到底太刀打ちが出来なかったのである。

とうに消え入りそうな虫の息である白雪姫をちらりと見つつ、シンデレラは部屋を見渡す。

足元には白雪姫のものであろう糞尿が、既に床の木目などにまでみっちり染み付きこびりつき、元々は「白くてがらんどうの部屋」だったろうに、経年とはあなおそろしや、という狼狽を隠せない。

だだだだだだっだっだっだっだっだっだっだっだ。

何やら聞こえる。

だっだだだだっだっだどどどどどっどっどっどっどーーーーー

すごく聞こえる。

・・・・・・・

ピタッとやむ。

どん、ぎぃぃぃぃぃぃぃ。

扉が、勢い良くちょっと開く。

白雪姫の体が邪魔になって、扉の勢いが、死ぬ。

ざざざっと動く白雪姫の体。

いやでも視界に入る、賑やかな人々。

ぱぱかぱんぱんぱーん。

シタールが出せる最大限ファンキーな音。

陽気な顔をした派手な衣装を身にまとった、満面の笑みを浮かべた・・・・ま、じょ?

魔女だ。

あの魔女だ。

そう気づくや否や、魔女と目が合う。

シンデレラを視界にとらえその像が網膜に映し出され、脳にそれが伝わり認識した魔女の、顔はみるみると青ざめていく。

さっと視線を落とすと手元には何やら看板的な、そういうのを持っている。

魔女はそれを咄嗟に隠す。

ちょっと見えた範囲で、シンデレラは「ドッキ・・・成功」までは確認した。

リ、だろう。

隠れていた文字は「リ」だろうが。

魔女は引き連れた賑やかな人々と一緒に部屋に入ってきて、シンデレラ以外にもう一人、部屋にいることを確認する。

・・・・・・・・

いまは、もう、動かない。

そもそもが白雪姫が仕掛けてきた争いであり、さらに、先程の扉を開けた勢いでとどめをさされたのだろう。

だがそんな細かい状況は彼らには関係がない。

2年越しの監禁ドッキリ、というどだい無茶な企画がハッピーエンドで終わると思っていた彼らの思い込みの強さは、なかなかのものだ。

魔女「お、まえ」

シンデレラ「・・・」

魔女「台無し、じゃないか」

シンデレラ「・・・すいま、せん」

目の前でドッキリをかけ大成功を告げるはずだった白雪姫がボロボロの遺骸となり、その近くで軽傷は負っているが元気に佇んでいるシンデレラがいるという状況は、彼らにとっては実に、「十分」だった。

魔女「逃がさない、からな」

シンデレラ「・・・はい」

あの王子も苦く笑っていた。


・・・・・・・・・・・・・


少し時が経つ。

シンデレラ、とかつて呼ばれていたその女は、いつのまにか二人の娘を産んだ。

あれは誰の子なのか、と口にすることはタブーとなっていた。

城中の誰もが知っていたが城中の誰もが知らないことになっていた。

その娘の一人は生まれてすぐに城を追い出され、とある目の釣りあがった手厳しい継母の下に預けられた。

もう一人は、城で大事に大事に育てられた。

シンデレラ、とかつて呼ばれていた女は、いつのまにかコスプレを趣味とするようになり、若干の魔法とかもたしなみ、対外的には真っ白な部屋に閉じ込められつつも、一人っきりでもまあまあ楽しんで、何やら幻を見てはボソボソとしゃべるという日々を送っていた。

そんなでも、城に残した娘を可愛がっていたかつてシンデレラと呼ばれていた女だったが、ある日、とある決断をする。

とある決断・・・・・・・・・・・



あの娘の大好きなリンゴに毒を仕込みながら、メルヘンなカボチャの馬車をせっせと仕込みながら、一人ごちる魔女がそこにはいたのだった。

ひすとりー、りぴーつ、いっとせるふ


はい。




めでたしめでたしだね。





終わり
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