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かぐや姫+SF小説(新しいむかしばなし第2シリーズ)

かぐや姫+SF小説 第三話(最終回)

ヤマデーブゲッリヤマデーブゲッリヤマデーブゲッリ、オマ デーリゲルンパ(芋を煮たい芋を煮たい芋を煮たい、そして食いたい)
マルセル・プルースト『コンビニライフにぞっこんだぜ 第9巻』


大変なことが起きるきっかけと言うのは概してくだらないものだ。

ボリンガ星史を振り返ってみればそれは一目瞭然で、星中を巻き込んで1000年以上も続いた第三次モウタイ大戦争は、ダッデム国王43世がフェデリク湖岸で暗殺されたのがきっかけで、その暗殺を企てたのは第3側室のビラーデル姫であり、その決断に至ったのは国王が姫たちに配ったカシューナッツ(この星で言う所の羊羹)の大きさがまちまちであったばかりか、セメント(この星で言う所のお茶)はぬるく、箸休めとして用意されたじゃがりこ(この星で言う所のじゃがりこ)があまりにも堅かったことに腹を立てたその日が、観測史上最も暑く湿度も高くイライラジメジメする日だった、という理由からである。

かぐや姫が巻き込まれることになったボリンガ星VS地球の全面的大戦争、「ボイヘレンの乱」のきっかけは、そのえっとなんていうか・・・帝の恋心であった。

帝くらいになっちゃうと、世の中に自分の言うこと聞かない奴なんてまあいないわけだが、かぐや姫にはそれが通用しなかった。

だってノット地球人だから。

帝と会い、帝にアドレスを聞かれ、面倒だがしつこいので教え、帰りの道中にもう連絡があり、長文で、すんごい長文で、簡単にいえば「好きっす」ってことで、あーかったりぃ、と思ってる間に、もう次のが来、だりぃだりぃと思ってる間に、どうにか帰宅し、それからというもの、とにかくしつこくやってくるその連絡に、うんざりぐったりしつつ、でも時には返し、すると信じられない速さで信じられない分量の返事が来、やっべえこれドロ沼、ドロ沼ラビリンスっしょ、とか思ってたら、なんか涙出てきて、なんかもう止まんなくて、着物ビッショビショで、重くて、いいやもう寝ちゃお、と、思ってたら、空のあっちの遠くの向こうの方から、来た。

お迎えが、来た。

あれだけ待ってたものが、本当に現れたときのリアクションなんて、たかが知れている。

んあー

かぐや姫から実際に出た言葉はそんなもんだった。

んぽー

と言いながら立ち上がり

んきゅー

と言いながら老夫婦に事情を話し

んんどばーじゅらっちゃんーぎゅりどふぇん!

と言いながら明日お世話になった人にあいさつ回りをしたのち、ボリンガ星に帰ろう、と心に決めた。

でも帝はどこまでも粘着質な奴だった。

かぐや姫のそうした事情を耳にした途端、軍勢を率い、かぐや姫を腕づくで我が物にしようとした。

ボリンガ星人たちにとって、「送りこんだ娘がそこでモテちゃう」なんてのはまあよくある話だったので、戦の準備はあった。

あったが、いつもとは事情が違った。

つい先日のことだ。

ボリンガ星の現国王イポリン8世と、彼の第11側室マッタイン姫の長女ジュリトン姫との間に子供が出来た。(こんなこと覚えてる人は皆無だろうが、第11側室マッタイン姫はかぐや姫の母親であり、ジュリトン姫はかぐや姫の姉である。そして側室の娘と国王が通じてたなんてのは万国共通・言語道断のタブーである)

このスキャンダルを受け、イポリン8世は「自分は誘惑されただけだ」とコメントしたため、瞬く間にマッタイン姫とジュリトン姫の処刑が決まり、つい先頃、執行された。

つまり、かぐや姫はもう地球にいる理由がなくなったから、もう姫でも何でもないから連れ戻されるのである。

そうとは知らず故郷に帰れることをやみくもに喜ぶかぐや姫、それを何とか阻止しようと励む帝、詳しくは聞かされてないけどとにかくかぐや姫を連れ戻さないと自分が何をされるかわかったもんじゃない、下っ端ボリンガ星人たち。

この微妙にずれた三者の在り様こそが、「ボイヘレンの乱」が不必要に長引いた一番の原因である。(余談だが、ポップラー波を銃口から放つ最新式のヨンヨンレーザーガンに対し、竹槍を担いだ軍勢が、案外健闘したことで、ボリンガ星では竹に似たヒッテレの再評価がこの戦争をきっかけに進んだのは有名な話である。)

結果的には、下馬評通り、ボリンガ星の圧勝に終わった。(余談だが、この戦争で唯一犠牲になったボリンガ星人であるイクリナス・エモ・ダンビダンビ・ルーネンバーの死を悼む、という名目で作られた「エモ公園」は、先ごろ、ホームレスや暴走族の溜まり場と化し、風紀を乱しているから無くせという住民の声があまりにも多かったため、完全に消滅した。今は、彼の故郷であるベッシラ駅前に「竹槍に串刺しにされたエモ・ダンビダンビ像」だけが寄贈され、若者たちの待ち合わせ場所として使われている。)

帝はそうなるといともあっさりと手を引き、何事もなかったかのように「ちん、ちん」言っていた。

老夫婦もまた、何事もなかったかのように、老夫婦らしい背伸びをしない生活に戻っていた。

かぐや姫は・・・・心弾ませていた。

ボリンガ星の言葉で「希望」と言う意味を持つ「サトーン号」の窓から見える円形の宇宙を見つめながら、これからの自分にわけもなくわくわくしていた。

思わずこんな詩を、曇った窓ガラスに書いていた。

ク デレーオラ イヴェデンサ イオ ポムニ オリ オリタ ラッパエス

もちろんこの時のかぐや姫に、星に戻ってから自分の身に降りかかる運命など想像することすらできなかった。

彼女にできることと言えば、ただぼーっとして、なぜだか流れてくる涙を拭きながら、少しずつ遠ざかっていく地球を見つめることくらいだったのである。

はい、めでたしめでたしですね。

かぐや姫+SF小説、完。
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かぐや姫+SF小説 第二話

オポリ ゲ ダビーラ ヨムヤムヘレデスオイト ガンダギャンドゥイ(では早速、片栗粉でとろみをつけていきまーす) 
ジャック・ラカン「野菜と梅毒より」


かぐや姫にとって「地球で老人によって持ちかけられる縁談、その後結婚」というシナリオほど、生きる気力をそぐものはなかった。

ボリンガ星人にとって、異星人との結婚はそのまま異星への永住を意味するのであって、話に聞いたことしかないジュレティおばさんの様な悲惨で滑稽な人生を歩むわけにはいかないので、かぐや姫は真剣に考えていた。

そもそもこの星に嫌々ながらも送られてきたのは、無事に帰るため、帰って大人になるためなのであり、ボリンガに帰った後、『ダダビリの昼下がり』や『キーラ・デッセ・オマン―ニンタポの物語―』などで知られる俳優のケゲレー・ウドンコスタのようなタイプの男子と出会えないとも限らないし、割と思い込みの激しいタイプでもあるかぐや姫にとっては、そういう出会いがまず間違いなく訪れるであろうとほぼ確信していた。

だので。

どんな奴が求婚に来ようとも、ヴェンドポ地方出身の女性らしく、言葉とテクニックで首尾よく追い払うような算段を、ほぼ毎夜、ボリンガのある方角の空をじっと眺めながら繰り返していた。

時は来た。

かぐや姫の前には五人の男たちがずらりと並んだ。

地球の男たち、それも強欲にまみれた連中特有の、脂ぎった精神が作り出す汚い笑顔をそれぞれが個性なく浮かべながら、群がっていた。

どいつもこいつもなかなかに高貴な身分らしく、この星での流行を取り入れた奇抜なファッションに身を包んでいたが、異星人の立場からものを言わせてもらえば、どれもこれも見るに堪えない、例えるならばユーゲダの死骸にゼンポニやゲジュンがプンプンたかっているような(まあそれは言いすぎだが)、そういうひどいものだった。

だから無茶苦茶を言った。

仏の御石の鉢も蓬莱の玉の枝も火鼠の裘も龍の首の珠も燕の子安貝も、ボリンガではたやすく手に入る類の別段珍しいわけでもない代物だったが(とはいってもその辺に落ちてるとかそういうことではなく、ウェンジズ爺さんに頼んでインダボ・フェンダボの術を使って出してもらうわけだが)、地球にはその手の超人がいないのでまあ見つけてくるのはどだい無理な話と踏んで、「これを持って来たら結婚してやる」と高らかに宣言してやった。

5人のうち4人までは、まあ精神が淀んでいたのだろうこともあって偽物をこしらえたり、的外れなものを持ってきたり天気が悪くなったので探すのをやめたりしていたが、ちょっと好青年タイプの(俳優でいえばミン・ダッセ!)男が、いささか誠実な探しっぷりであと一歩のところまで肉薄してしまったので、まあ彼には悪いことをしたがサクッと絶命してもらった。

はい残念~

心の中でかぐや姫はニマニマしながら、なんとか縁談の危機を乗り切ったのでいよいよさあやっとこさついに帰れるぞ帰るぞ帰ってやるぞと、盛り上がっていた。

なのに。

かぐや姫の噂を聞きつけたこの国のトップオブセンターオブジアースが、つまりは帝が、「ちんかぐや姫にあいたいちん」と言ってきた。

正直面倒だったが、まあそこ押さえておけば箔が付くのは間違いなかったので、まあとりあえず行ってみた。

だがそれが悲劇の始まりだった。

後世に「ボイヘレンの乱」と語り継がれる宇宙大戦争の序章と、この対面がなろうとは、送られてきた帝からの招待状に描かれた帝の顔に、落書きしそれに飽き、寝て、厠に行きたいとごね、何でさっき言わなかったんだと諭され、さっきはしたくなかったんだもんといじけ、寝て、こんな狭い籠で運ばれる私、を、飛脚がかつぐ荷にたとえ、こんな歌を詠んだかぐや姫は、知る由もなかった。

ニタラグデ イタルデレンヴォ ココタミル ヒングラベベド キニスカヤンゲ

思いがけず名歌が詠めたので、またニマニマしつつ、何度も言うようだがこの時のかぐや姫には知る由もなかったがこの後、えらい大変なことになるのであった。

次回早くも最終回!

続く
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かぐや姫+SF小説 第一話

ニブ エ ダッセシ マラッキキダゲルポドフ
(お好み焼きだからって何いれてもいいってわけじゃないんだぜ)
 ルカ福音書 第3章58節


かぐや姫は自分の運命を呪っていた。

姫とは名ばかりの、国王の第11側室の次女にすぎない自分のようなものは、こうして見知らぬ星の臭い植物の内側に身をひそめて佇んでいるのがお似合いなんだよと、昔からウマの合わないジュリトン姫が陰で言っているような、そういう気がなんだかずっとしていた。

早く星に帰りたい。

星に帰ったからと言って、そこそこに虐げられるであろうかぐや姫を待ち受けている運命などたかが知れていたが、それでもこんなところにいるよりはましだと、思っていた。

かぐや姫の生まれたウリウリ系M110星雲ボリンガには、成人女性になるその前に、ユン・ホイズラー博士の開発したニンゲッカイルポージポ装置によって急速に幼児化された後、チンダルーリワープによって適当な星に送り込まれ、伝説など適度に残しつつなんとか生き残れば晴れて大人、生き方が平凡だったり野蛮な獣とかに捕食されて生き残れなければそのまま追放っていうかさよなら、みたいなほとんど罰ゲームの様なならわしがあり、馬鹿言ってんじゃねえようざってえよケツの穴に豚トロぶちこんで雑に割った割り箸でぐちゅっとするぞこの野郎、とだれもが皆一様に思うようなしきたりながらも、黙ってそれを受け入れざるを得ない自分の残念な生い立ちには、嫌気がさすばかりだった。

だが、そうは言っても、ここまで来たからにはきちんと成果を残して帰りたいと思うのがかぐや姫の案外真面目なところでもあり、こうしてヒッテレに似た植物の中に身をひそめているのも、初めの出のテンションを大事にしたいというのと、なにはなくともちっちゃいのは無条件にかわいがってもらえるもの、というのを身をもって知っていたからであった。

だもんで。

かぐや姫を発見したのが耄碌した老人だったのは幸いであった。

既に視神経がいかれ現実と夢の境界が精神的にも視覚的にもあいまいなその老翁は、自分はまだまだボケちゃいないんだと言うことを主張すべく、たまたま切った竹の中から偶然少女が出てきたという事実を、竹藪の中で光っていた竹を見つけ切ってみたら玉のようにかわいい少女がいた、という思いがけずレジェンドな方向に捻じ曲げてくれた。

こうしてかぐや姫は期せずして、この星である程度スペシャルでいられる基盤を手に入れ、そして、ほとんど病気のようなスピードで成長した。

通常、ニンゲッカイルポージポ装置によって幼児化したボリンガ人の女性が、ウンツク製薬のショルタリンBを毎食後2錠ずつ服用した場合にのみ、3年程度で元の状態に戻ることが出来るわけだが、おそらくこの星の大気の状態や老人たちがふるまってくれる食事(かぐや姫は筑前煮と呼ばれるブルレッロからオレペレの実を抜いたような料理が特に好物だった)が何らかの、ベオブラボリンに似た成分を含んでいた結果、そういうことになったのだろう。

そうして、数カ月の間に元の、年相応の姿に戻っていったこともまた、かぐや姫の生涯をいい感じにレジェンディックな装いにしてくれたので、幸いだったと言える。

しかし、こうなってくると気になりだすのは、かぐや姫は果たしていつどのタイミングでこの星から帰ることができるのか、と言うことだった。

ボリンガ星のそもそものならわしでは、「生き残る」と言うことがかなり重要なわけで、それは幼児化したボリンガ星人の女性はしばしば獣の餌食になりやすいからなわけだが、これだけ手厚く過保護に扱われていたらそういう心配もなく、なので要するに、もうすぐにでも帰還できるのではないかと期待してしまうのも無理がないのであった。

だがそううまくもいかない。

テリターリおじさんがよく言っていた「ゲレ イポリーポ ユル フェッタ インヴォス!」というあの諺をつい、思い出してしまう。

ある日、老人たちがかぐや姫に示したのは、この星の背の低い男たちとの「結婚」という、もう元も子もない提案だったのだ。

続く
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