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さるかに合戦+法廷が舞台の小説(新しいむかしばなし第3シリーズ)

さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第四話(最終回)

カニ兵衛がこれまで登場してきたどれともはっきり異なっていたのは、蟹離れしたたくましい精神力だった。

一言目からそれは際立っていた。

「私がここで語るべきはただ一つ。今回の件に関する真相です」

そしてこう続けた。

「事件の概要としては、ゆめたろうさんが囲炉裏で火に当たっていると、火中のクリントンが飛び出してきて顔にぶつかり、冷やすために水を探してたらビーリー・ミリガンが尻を刺し、外に逃げようとすると屋根からウス吾朗が飛び降りてきて圧死させた、と言うことでよろしいですよね?」

うんそう聞いているぞふむふむ、もっと聞かせたまえほらほら。

「結論から言いましょう。私が個人的感情から誰かを殺めるなんて、考えただけで泡吹いて卒倒しそうになります」

なるほど。つまりあれだな、君は無罪を主張するんだなむほ~ん。

「はいそうなります裁判長」

あれ、心の声なのに。

「私の全てを分かっていただきたい。あなたならきっとそれが出来るはずだ」

勇ましくそう言い放ったカニ兵衛に、私はヒトと蟹と言う種族差を超えて胸の奥がむずむずするような筆舌に尽くしがたい感情が溢れ出てくるのが、止められなくなっていた。

それから閉廷まで、何が起きたかなんてほとんど覚えていない。

ただはっきりしているのは、検察側の思惑にも弁護側の思惑にもそぐわない結論を、私がもうろうとする意識の中、必死で出したと言うことだ。

検察側の求刑は被告人全員の死刑であったわけだが、やはり直接手を下しとどめをさしたウス吾朗以外にその罪は重くしよっ、と判断し、ウス吾朗は普通に死刑で、ビーリー・ミリガンは島流しの刑(親との別離をやむなくされた彼が、必死で親を探すこととなり、そのエピソードを基に作られたのが『みなしごハッチ』であることは有名な話)、クリントンにはデパ地下での永年勤務の刑(そこで気に入られ、パートのおばさんのちょっとした悪戯でもち米と混ぜられた結果、偶然生まれたのが『栗おこわ』であることは有名な話)が科せられることとなった。

そして、カニ兵衛・・・・無罪。

とみこは呆然として顔を赤らめ尻をぼりぼり引っ掻いていたけれど、あたし彼を裁くことなんてできない。

そう思ったらもういろんなことがどうでもよくなっちゃった。

だからあたし決めたの。

この胸のドッキドキが収まるまで、どこか遠くへ行こうって。

カニ兵衛さん。

あなたはやっぱ、有罪よ。

だってあたしのハートをチョキチョキしたんだから。

あたしにたとい軟禁されても、文句言わずにズビズバ答えなくてはならない、の刑よ!

あたしはこうしちゃいられないので、とりあえず閉廷して、ゆったりとした足取りで席を離れながら、ちょっとした違和感を覚えた。

なんでこんなにあたしの靴の裏側の主に右方面から、獣の排泄物に似た悪臭がするのだろう、と。

足を上げ匂いの原因をこの眼で突き止めようと一瞬思ったが、すぐにやめた。

あたしは変わるんだ。

すぐに何かの理由を、論理と正論で突き詰めるようなそういうつまらないことはもうしないんだ。

あたしは裁判所の赤絨毯に茶色い臭い何かをまき散らしながら、底抜けの笑顔で外に出た。

ああなんてまぶしいのかしら、世界。

このまぶしさで、ご飯何杯でもいけるわよ!!!

あたしは実際にそう声に出して、ついについに、蝶になったのでした。



つうわけで・・・・・・・

めでたしめでたし!!
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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第三話

ビーリー・ミリガンとクリントンは、ごくごく平均的な大学生に見えた。


週に一、二度の飲み会には律儀に顔を出し、単位のこととサークルのことと時折やってくるロマンスに胸躍らせる日々の中、いつの間にか就職活動が始まって流れ流れて会社員になる、というような運命にさほど違和感なく順応できるタイプの連中だ。


どんな相手も大体見た目で判断し尽くしてきた経験測で、私はそう感じていた。


そして、結果としてその読みは大体当たっていた。


ウス吾朗が退席した後、ビ-リー・ミリガンとクリントンは仲良く証言台に立った。


そして謀った。


端的に言えば「裏切り」と言うアレだ。


ビーリー①「なんつうか、おれたちみたいなちょこざいな大学生レベルが、自分たちだけの力でこんな大それたこと出来ないしぃ」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー②「私共としましては、ねぇ?あのー何の気なしにカニ兵衛さんに連れ立っていってみたらですよ、なんだか、ねぇ?あれよあれよと言う間にこんなところにお邪魔してて、びっくりしてるんですよぉ、ねぇ?」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー③「拙者、ゆめたろう殿には大変なご無礼を拙者が働きましたこと、深く拙者お詫び申し上げたい」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー④「ウフフ、あたしたちぃ、もうこうなったらって感じで言わせてもらうんだけどぉ、オッフフ、私たちが全然悪くないんだぞってことをまとめた証拠、もってきちゃってて、これ提出しまぁす」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


視界に入った検察官のポン太が、下品に笑っていたので私は察した。


この裁判で身を持ち崩したくない奴らとポン太の間には、何らかの契約が取り交わされており、ビーリー・ミリガンが、「イヤッホーこれだぜーみてみろよロケンロール」とか言いながら、次の人格を模索しつつ提出してきた証拠は、「自分たちが戦地でボランティアをする写真(しかし明らかに合成)」、「署名(だがどれも親類縁者)」、そしてその書類の間には20000円(10000円×2という考え方なのだろう)が挟んであった。


私は迷うことなく20000円をビーリー・ミリガンに突き返し、証拠の不受理を決めた。


検察官のポン太が苦虫をギリギリ噛み潰しながら悔しがっているのが見え、ウス岡がほっと胸を撫で回しているのも分かった。


周到に準備してきたようでまったく配慮の行き届いていないこうした詰めの甘さが、おそらくはこの裁判のグレードをはっきり物語っているようで嫌気もさしたが、ここで投げ出すわけにもいかないし、やる気が削がれてきてはいるがそれなりにきちんとまとめて決断をしなければならないのが自分の仕事である。


さっきから喉元に絡みついて離れない痰をようやく咳払いしがてら吐き出して、誰にも見られないように死角で、指先についたそれをペチョペチョやりながら、遂にやって来たカニ兵衛が証言台に向かうのを見つめていた。


そして、なんだかんだで、戦いは最終局面を迎えていたのである。


続く(次回、戦慄の最終回!)
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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第二話

プロである私の目から見て、まず初めに論争の焦点になるのは、カニ江の死が事故だったのかどうかについてだろう。


・・・・


・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?


すまない。


ぞろぞろと入場する弁護側の顔ぶれを見て、声もなく驚いてしまった私だ。


弁護士の親臼(ウス岡)を先頭に、今回の被告であるカニ兵衛、蜂(ビーリー・ミリガン)、栗(クリントン)、子臼(ウス吾朗)、牛糞(ウンコ)がそぞろ歩いてやってきた。


「オールスター」という言葉が一瞬だけ脳裏をよぎったが、すぐにたち消えた。


色々この集団を手際よく括る愛称を考えてみたが、結局私は「今日、なんか祭りなんだ」と思うことで決着をつけた。


・・・・・・・・・・・!!??


あ、ああすまない。


検察側の求刑が、まあ予想通りと言うかなんというか「死刑」だったもので、ちょっとぼうっとしてた。


それも被告側全員の死刑を望むそうだ。


そうして検察側の冒頭陳述が終わり、早速、ウス吾朗が証言台に立つ。


ウス吾朗は臼だが、おそらくは昨日、父親のウス岡とみっちり丹念に練習を重ねたであろう証言を、淀みなくすらすらと述べていた。


まず、カニ江への渋柿攻撃は、はっきりと意図されたものであり、そこに殺意があったのは間違いがないということ。


そして、自分たちがカニ兵衛と結託してゆめたろうへのリベンジを決行したという話は、検察側のでっち上げたシナリオに他ならず、というのもその当日、むしろゆめたろうこそがカニ兵衛を襲撃しようとたくらんでいて、それを見破った自分たちによる正当防衛が、結果的にゆめたろうの惨殺につながってしまった、ということ。


ゆめたろうには悪いことをしたと思っているが、大前提としてゆめたろうのような悪猿に迫られたら普通に怖いじゃないですか、と、汗で落ちそうになった銀縁眼鏡を器用に臼の縁の部分で持ち上げながら私に訴えた。


その証言はどの証拠と照らし合わせても、妥当なものであり、更に言えば、非常に残念な話ではあるのだが、ゆめたろうの常軌を非常に逸した外見が、今回の一件に関して、非常にゆめたろう自身にとって非常に不利に非常に働いているというのは非常に間違いがなかった。


私も彼の遺影や現場での死体写真でその風貌を確認したが、ここだけの話、生前と死後の写真の区別が全くつかなかった。


生きながらに死んでいるとでも言えばいいだろうか、まさに「これで死んでるんだぜ」を地で行く、そういうリアルかっちゃんだったのである。


司法が、ある個人の顔面を根拠に揺らぐようなことがあっては決してならないことは百も承知であるが、そういう大前提を覆しかねない神の悪戯が、確かに眼前に現前しているのだという事実だけは是非とも覚えて帰ってもらいたい、いや、出来れば帰ってほしくはない。


・・・☆∂◆¢£§ΞЁ㍽Ж¥鬱¶≠!!!???


ああ、言葉にならなすぎて、つい呪詛ってしまった。


こんな理路整然としたウス吾朗の証言に対し、検察官(ポン太←これでも人間)は、「検察側の質問はないです!」と高らかに言い放った。


死刑を求刑しているのに検察側が最初の被告人質問をスルー。


私は察した。


この裁判には何かからくりがある。


そして気づいた。


今のところ、私にはその正体について、皆目見当がつかないということを。


そしてその謎を解くカギは、いま眼下で震えわなないている大学生の二人、ビーリー・ミリガンとクリントンが握っている。


ということにしようと、筆者はいま、なんとなく思っている。


続く
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