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さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第三話

ビーリー・ミリガンとクリントンは、ごくごく平均的な大学生に見えた。


週に一、二度の飲み会には律儀に顔を出し、単位のこととサークルのことと時折やってくるロマンスに胸躍らせる日々の中、いつの間にか就職活動が始まって流れ流れて会社員になる、というような運命にさほど違和感なく順応できるタイプの連中だ。


どんな相手も大体見た目で判断し尽くしてきた経験測で、私はそう感じていた。


そして、結果としてその読みは大体当たっていた。


ウス吾朗が退席した後、ビ-リー・ミリガンとクリントンは仲良く証言台に立った。


そして謀った。


端的に言えば「裏切り」と言うアレだ。


ビーリー①「なんつうか、おれたちみたいなちょこざいな大学生レベルが、自分たちだけの力でこんな大それたこと出来ないしぃ」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー②「私共としましては、ねぇ?あのー何の気なしにカニ兵衛さんに連れ立っていってみたらですよ、なんだか、ねぇ?あれよあれよと言う間にこんなところにお邪魔してて、びっくりしてるんですよぉ、ねぇ?」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー③「拙者、ゆめたろう殿には大変なご無礼を拙者が働きましたこと、深く拙者お詫び申し上げたい」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー④「ウフフ、あたしたちぃ、もうこうなったらって感じで言わせてもらうんだけどぉ、オッフフ、私たちが全然悪くないんだぞってことをまとめた証拠、もってきちゃってて、これ提出しまぁす」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


視界に入った検察官のポン太が、下品に笑っていたので私は察した。


この裁判で身を持ち崩したくない奴らとポン太の間には、何らかの契約が取り交わされており、ビーリー・ミリガンが、「イヤッホーこれだぜーみてみろよロケンロール」とか言いながら、次の人格を模索しつつ提出してきた証拠は、「自分たちが戦地でボランティアをする写真(しかし明らかに合成)」、「署名(だがどれも親類縁者)」、そしてその書類の間には20000円(10000円×2という考え方なのだろう)が挟んであった。


私は迷うことなく20000円をビーリー・ミリガンに突き返し、証拠の不受理を決めた。


検察官のポン太が苦虫をギリギリ噛み潰しながら悔しがっているのが見え、ウス岡がほっと胸を撫で回しているのも分かった。


周到に準備してきたようでまったく配慮の行き届いていないこうした詰めの甘さが、おそらくはこの裁判のグレードをはっきり物語っているようで嫌気もさしたが、ここで投げ出すわけにもいかないし、やる気が削がれてきてはいるがそれなりにきちんとまとめて決断をしなければならないのが自分の仕事である。


さっきから喉元に絡みついて離れない痰をようやく咳払いしがてら吐き出して、誰にも見られないように死角で、指先についたそれをペチョペチョやりながら、遂にやって来たカニ兵衛が証言台に向かうのを見つめていた。


そして、なんだかんだで、戦いは最終局面を迎えていたのである。


続く(次回、戦慄の最終回!)

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