TextTop > BlogTop > 新しいむかしばなし

新しいむかしばなし

(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第二話

わたくしは白雪姫。

名前の通り、完全に姫。

父上はわたくしが生まれる前になんか馬のトラブルで死んじゃいました。

母上は自称魔法使いです。

彼女にしか見えない魔法の鏡にしゃべりかけては、自分より美しい女を探す日々を私の物心がついたころからずっと、送っています。

ほとんど魔女ですね。

母上の美への執着は凄まじかったです。

ドホモルンリンクル的なものはもちろんのこと、ヒジャモケッチャナムルンとか言う無名の薬草取りに断崖絶壁まで行ったり、ロデオマシーンの存在を知るや否や馬車馬で試したり、まあ要するに彼女の生き方そのものがビューティコロシアムでした。

そんな母上は、鏡が「お前より美しいのはお前の娘だ」と言ったとわめきちらし、パニックしパニックしパニックし尽くした後、わたくしを城から追放しました。

姫なのに。
あぁ姫なのに。

身一つで城から放り出され、森の中をさまよっていたわたくしに、救いの手を差し伸べたのは、小さなドワーフたちでした。

新手のナンパかしら。
それともキャッチ?

そう思わないではいられなかったのです。
でも違いました。

だって彼らに私の貞操を奪取することなんて出来る筈ないもの。
彼らの体のサイズが、そこから推測される生殖器のサイズが、その事実をはっきり物語っていたんだもの。

でもなんなのかしらこのちんちくりんたちは。

一度疑い始めると想像力がとどまることはありませんでした。

彼らは夜になると何らかのモンスターにでもなるのではないかしら。

激怒して眼が白くなり皮膚が緑色に変色し筋肉が盛り上がって着ていた服が裂け巨人に変身するとか、まあそれは私が好きな超人ハルクだけど、悲しみの巨人・超人ハルクにかつがれてわたくし諸国漫遊の旅路につくのだわ街とか文化遺産とかを無造作に破壊して人々の嫌悪な視線を全身くまなく浴びるのだわそうよそうなのよそうに決まっているのだわよきゃあああーーー!!!

・・・でも、元々深く悩んだりしない性格のわたくしは、七人のドワーフとの小粋な会話でそんなことはすぐに忘れてしまいました。

赤ドワーフ「姫、ご飯は何食べます?」
白雪姫「グラタン」
青ドワーフ「グラタンはちょっと・・・材料の関係があるもんですから」
白雪姫「じゃあピザ」
黄ドワーフ「チーズがね、ないんですよぉ」
白雪姫「ピザ」
緑ドワーフ「姫?聞いてますか?チーズがちょっとご用意できないんですよ」
白雪姫「誰?」
茶ドワーフ「なんですか?」
白雪姫「誰のせいなの?チーズがないのは」
黒ドワーフ「・・・いや誰のせいと言われましてもねぇ」
白雪姫「お前が悪いのか?」
白ドワーフ「いえいえ、そんなことないです」
白雪姫「七人並んで。歯食い縛ってくれる」
ドワーフ一同「ひぃぃぃぃぃぃーーーー」

夢のような毎日。
たいそう楽しかったわ。

でもそういうのってあんまり長く続かないものなのよね。
わたくしの場合もそう。
突然の出来事に、いろいろが溶けていっちゃうことって、あるよね。

週明けの月曜日。
変装丸出しの母上が、なぜだか魔女っ子のコスプレを身にまとった姿で玄関先に立っていたあの朝が全ての始まりだったのです。

続く
  • -
  • -

(シンデレラ×白雪姫)+ケータイ小説 第一話

あたしの名前はシンデレラ。
完全に孤児。

ママはあたしが生まれる前に事故で死んだ。
パパはあたしが2歳の時に女を作って失踪。

みなしごになったあたしはすぐに孤児院に預けられ、6歳の時に今の家に召使として引き取られた。
それからのあたしの人生の停滞ぶりったらなかった。

「シンデレラ、なんだいこれは。わたしにこんな埃まみれの履物で外へ行けと言うのかい?」
継母が鬼コワ、これはまあ常識。

「あらドブネズミが鎮座してると思ったらシンデレラじゃないか汚いねぇ」
「ほんとだ汚泥がにじり寄って来たと思ったらシンデレラじゃないか吐きそうだよ匂いで」
継母の娘たちからのいじめ、こんなの当たり前。

「お前にこんな布切れもったいないわ剥いでやる剥いでやるって!」
「ぎゃおー」
継父が肉体関係を迫ってくる、これもまあよくある話。

とにかくそういうつまらないアンハッピーを全身で背負いながら、毎日をただ淡々と鬱々と過ごすのが、あたしの日常だった。

あの日だっていつもの通り、そうなるはずだった。

「シンデレラ!シンデレラ!」

継母の、鼻に引っ掛かった嫌味なダミ声が屋敷中に響いた。
あたしは急いで階段を昇り、継母一同がいる食卓に向かった。

「おやおやシンデレラ、今日も黄ばんだドレスがとってもお似合いで」
「あらお姉さま、火であぶったスチールウールさながらにチリッチリの黒髪もセクシーですわよ」
「いえいえ何と言ってもスラっと伸びた指先の爪の黒ずみが炭坑夫を思わせてたくましい限りよ」

継母の娘であるマンデラ、アラファト、スーチーの三姉妹が今朝も全開だ。

「こらあなたたち、大事な召使いをそんな風に言うんじゃありません。こう見えても週給20ザビエルの高給取りなんだからねムホホ」

継母も不敵な笑みを浮かべながら嫌味を言う。

「お母様、20ペリーの間違いじゃないですか?20ザビエルって、イヤリング片耳分だって買えませんわ」

そりゃそうだ。
正確にはそこから源泉徴収で2ザビエル、国民年金で3ザビエル29イエズス引かれた上に食費や光熱費も払わされるので、出来ても市場でカラフルなヒヨコ買うくらいなもんだ別に絶対全く買わないけど。

「奥様、ご用件はなんだったでしょうか」
「シンデレラはせっかちねぇ、小粋なトークを楽しんだりする余裕はないのかしら」

余計な御世話だよばばあ。

「私たち、今日、お城で舞踏会があるのね。それでシンデレラには私たちのお召し物の用意と馬車の手配をやってもらいたいの。出来るわね?」
「はいかしこまりました」

舞踏会か…

「じゃあ行ってくるわねシンデレラ、旦那様以外にお客が来ても絶対に扉を開けてはいけませんよ」
「そりゃそうよお母様。私たちのような美女が出てくるならまだしもこんなヘドロが服着て歩いてるみたいな女が目の前に現れたら、誰でも卒倒しますもの」
「言いすぎよマンデラ、ヘドロなんて。ムホホ。じゃ行きましょ」

馬車はカポカポ音を立てて、小道をゆっくりと進んで行った。

まあなにはともあれ、これで束の間の安息が訪れるのだわ、とシンデレラは胸をときめかせていた。

ピンポーン。
・・・・
ピンポピンポーン
・・・・・・・
ピンポピンポピンポピピピピピピンポーーーーーン

しつこいぞバカやろう。
シンデレラは空気の読めないガサツな糞野郎に、インターフォンの正しい押し方を教えてやると言う名目の一喝を、ビシバシ浴びせかけてやろうと玄関に向かった。

ゆっくりと扉を開けると、そこにいたのは「醜女(しこめ)」の名を欲しいままにするクソババアだった。

続く
  • -
  • -

さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第四話(最終回)

カニ兵衛がこれまで登場してきたどれともはっきり異なっていたのは、蟹離れしたたくましい精神力だった。

一言目からそれは際立っていた。

「私がここで語るべきはただ一つ。今回の件に関する真相です」

そしてこう続けた。

「事件の概要としては、ゆめたろうさんが囲炉裏で火に当たっていると、火中のクリントンが飛び出してきて顔にぶつかり、冷やすために水を探してたらビーリー・ミリガンが尻を刺し、外に逃げようとすると屋根からウス吾朗が飛び降りてきて圧死させた、と言うことでよろしいですよね?」

うんそう聞いているぞふむふむ、もっと聞かせたまえほらほら。

「結論から言いましょう。私が個人的感情から誰かを殺めるなんて、考えただけで泡吹いて卒倒しそうになります」

なるほど。つまりあれだな、君は無罪を主張するんだなむほ~ん。

「はいそうなります裁判長」

あれ、心の声なのに。

「私の全てを分かっていただきたい。あなたならきっとそれが出来るはずだ」

勇ましくそう言い放ったカニ兵衛に、私はヒトと蟹と言う種族差を超えて胸の奥がむずむずするような筆舌に尽くしがたい感情が溢れ出てくるのが、止められなくなっていた。

それから閉廷まで、何が起きたかなんてほとんど覚えていない。

ただはっきりしているのは、検察側の思惑にも弁護側の思惑にもそぐわない結論を、私がもうろうとする意識の中、必死で出したと言うことだ。

検察側の求刑は被告人全員の死刑であったわけだが、やはり直接手を下しとどめをさしたウス吾朗以外にその罪は重くしよっ、と判断し、ウス吾朗は普通に死刑で、ビーリー・ミリガンは島流しの刑(親との別離をやむなくされた彼が、必死で親を探すこととなり、そのエピソードを基に作られたのが『みなしごハッチ』であることは有名な話)、クリントンにはデパ地下での永年勤務の刑(そこで気に入られ、パートのおばさんのちょっとした悪戯でもち米と混ぜられた結果、偶然生まれたのが『栗おこわ』であることは有名な話)が科せられることとなった。

そして、カニ兵衛・・・・無罪。

とみこは呆然として顔を赤らめ尻をぼりぼり引っ掻いていたけれど、あたし彼を裁くことなんてできない。

そう思ったらもういろんなことがどうでもよくなっちゃった。

だからあたし決めたの。

この胸のドッキドキが収まるまで、どこか遠くへ行こうって。

カニ兵衛さん。

あなたはやっぱ、有罪よ。

だってあたしのハートをチョキチョキしたんだから。

あたしにたとい軟禁されても、文句言わずにズビズバ答えなくてはならない、の刑よ!

あたしはこうしちゃいられないので、とりあえず閉廷して、ゆったりとした足取りで席を離れながら、ちょっとした違和感を覚えた。

なんでこんなにあたしの靴の裏側の主に右方面から、獣の排泄物に似た悪臭がするのだろう、と。

足を上げ匂いの原因をこの眼で突き止めようと一瞬思ったが、すぐにやめた。

あたしは変わるんだ。

すぐに何かの理由を、論理と正論で突き詰めるようなそういうつまらないことはもうしないんだ。

あたしは裁判所の赤絨毯に茶色い臭い何かをまき散らしながら、底抜けの笑顔で外に出た。

ああなんてまぶしいのかしら、世界。

このまぶしさで、ご飯何杯でもいけるわよ!!!

あたしは実際にそう声に出して、ついについに、蝶になったのでした。



つうわけで・・・・・・・

めでたしめでたし!!
  • -
  • -

さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第三話

ビーリー・ミリガンとクリントンは、ごくごく平均的な大学生に見えた。


週に一、二度の飲み会には律儀に顔を出し、単位のこととサークルのことと時折やってくるロマンスに胸躍らせる日々の中、いつの間にか就職活動が始まって流れ流れて会社員になる、というような運命にさほど違和感なく順応できるタイプの連中だ。


どんな相手も大体見た目で判断し尽くしてきた経験測で、私はそう感じていた。


そして、結果としてその読みは大体当たっていた。


ウス吾朗が退席した後、ビ-リー・ミリガンとクリントンは仲良く証言台に立った。


そして謀った。


端的に言えば「裏切り」と言うアレだ。


ビーリー①「なんつうか、おれたちみたいなちょこざいな大学生レベルが、自分たちだけの力でこんな大それたこと出来ないしぃ」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー②「私共としましては、ねぇ?あのー何の気なしにカニ兵衛さんに連れ立っていってみたらですよ、なんだか、ねぇ?あれよあれよと言う間にこんなところにお邪魔してて、びっくりしてるんですよぉ、ねぇ?」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー③「拙者、ゆめたろう殿には大変なご無礼を拙者が働きましたこと、深く拙者お詫び申し上げたい」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


ビーリー④「ウフフ、あたしたちぃ、もうこうなったらって感じで言わせてもらうんだけどぉ、オッフフ、私たちが全然悪くないんだぞってことをまとめた証拠、もってきちゃってて、これ提出しまぁす」


クリントン「だよねぇまじだりいんすけど」


視界に入った検察官のポン太が、下品に笑っていたので私は察した。


この裁判で身を持ち崩したくない奴らとポン太の間には、何らかの契約が取り交わされており、ビーリー・ミリガンが、「イヤッホーこれだぜーみてみろよロケンロール」とか言いながら、次の人格を模索しつつ提出してきた証拠は、「自分たちが戦地でボランティアをする写真(しかし明らかに合成)」、「署名(だがどれも親類縁者)」、そしてその書類の間には20000円(10000円×2という考え方なのだろう)が挟んであった。


私は迷うことなく20000円をビーリー・ミリガンに突き返し、証拠の不受理を決めた。


検察官のポン太が苦虫をギリギリ噛み潰しながら悔しがっているのが見え、ウス岡がほっと胸を撫で回しているのも分かった。


周到に準備してきたようでまったく配慮の行き届いていないこうした詰めの甘さが、おそらくはこの裁判のグレードをはっきり物語っているようで嫌気もさしたが、ここで投げ出すわけにもいかないし、やる気が削がれてきてはいるがそれなりにきちんとまとめて決断をしなければならないのが自分の仕事である。


さっきから喉元に絡みついて離れない痰をようやく咳払いしがてら吐き出して、誰にも見られないように死角で、指先についたそれをペチョペチョやりながら、遂にやって来たカニ兵衛が証言台に向かうのを見つめていた。


そして、なんだかんだで、戦いは最終局面を迎えていたのである。


続く(次回、戦慄の最終回!)
  • -
  • -

さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第二話

プロである私の目から見て、まず初めに論争の焦点になるのは、カニ江の死が事故だったのかどうかについてだろう。


・・・・


・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?


すまない。


ぞろぞろと入場する弁護側の顔ぶれを見て、声もなく驚いてしまった私だ。


弁護士の親臼(ウス岡)を先頭に、今回の被告であるカニ兵衛、蜂(ビーリー・ミリガン)、栗(クリントン)、子臼(ウス吾朗)、牛糞(ウンコ)がそぞろ歩いてやってきた。


「オールスター」という言葉が一瞬だけ脳裏をよぎったが、すぐにたち消えた。


色々この集団を手際よく括る愛称を考えてみたが、結局私は「今日、なんか祭りなんだ」と思うことで決着をつけた。


・・・・・・・・・・・!!??


あ、ああすまない。


検察側の求刑が、まあ予想通りと言うかなんというか「死刑」だったもので、ちょっとぼうっとしてた。


それも被告側全員の死刑を望むそうだ。


そうして検察側の冒頭陳述が終わり、早速、ウス吾朗が証言台に立つ。


ウス吾朗は臼だが、おそらくは昨日、父親のウス岡とみっちり丹念に練習を重ねたであろう証言を、淀みなくすらすらと述べていた。


まず、カニ江への渋柿攻撃は、はっきりと意図されたものであり、そこに殺意があったのは間違いがないということ。


そして、自分たちがカニ兵衛と結託してゆめたろうへのリベンジを決行したという話は、検察側のでっち上げたシナリオに他ならず、というのもその当日、むしろゆめたろうこそがカニ兵衛を襲撃しようとたくらんでいて、それを見破った自分たちによる正当防衛が、結果的にゆめたろうの惨殺につながってしまった、ということ。


ゆめたろうには悪いことをしたと思っているが、大前提としてゆめたろうのような悪猿に迫られたら普通に怖いじゃないですか、と、汗で落ちそうになった銀縁眼鏡を器用に臼の縁の部分で持ち上げながら私に訴えた。


その証言はどの証拠と照らし合わせても、妥当なものであり、更に言えば、非常に残念な話ではあるのだが、ゆめたろうの常軌を非常に逸した外見が、今回の一件に関して、非常にゆめたろう自身にとって非常に不利に非常に働いているというのは非常に間違いがなかった。


私も彼の遺影や現場での死体写真でその風貌を確認したが、ここだけの話、生前と死後の写真の区別が全くつかなかった。


生きながらに死んでいるとでも言えばいいだろうか、まさに「これで死んでるんだぜ」を地で行く、そういうリアルかっちゃんだったのである。


司法が、ある個人の顔面を根拠に揺らぐようなことがあっては決してならないことは百も承知であるが、そういう大前提を覆しかねない神の悪戯が、確かに眼前に現前しているのだという事実だけは是非とも覚えて帰ってもらいたい、いや、出来れば帰ってほしくはない。


・・・☆∂◆¢£§ΞЁ㍽Ж¥鬱¶≠!!!???


ああ、言葉にならなすぎて、つい呪詛ってしまった。


こんな理路整然としたウス吾朗の証言に対し、検察官(ポン太←これでも人間)は、「検察側の質問はないです!」と高らかに言い放った。


死刑を求刑しているのに検察側が最初の被告人質問をスルー。


私は察した。


この裁判には何かからくりがある。


そして気づいた。


今のところ、私にはその正体について、皆目見当がつかないということを。


そしてその謎を解くカギは、いま眼下で震えわなないている大学生の二人、ビーリー・ミリガンとクリントンが握っている。


ということにしようと、筆者はいま、なんとなく思っている。


続く
  • -
  • -

さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第一話

  • 2009.03.25 Wednesday
  • -
世の中というものはどこまでも醜い。


だが人一倍正義感の強かった私が、裁判官と言う仕事を選んだのはその醜い世界にも「やり直し」が有効なのだという信念があったからに他ならない。


あった。


そう。


確かにあったのだ、あのときまでは。


事の始まりは、法廷に現れた原告が人間ではなく親猿(とみこ)で、ビッチョビチョに泣き濡れていたあの日まで遡る。


とみこが説明した事件の全貌はこうだ。


とみこの一人息子である子猿(ゆめたろう)は、近所でも有名なやんちゃ坊主で、その日もやんちゃにやいのやいのと野外で遊び呆けていた。


そこに現れたのが、蟹(カニ江)だ。


カニ江はなぜだかおにぎりを持っていて、遊び相手が欲しかったゆめたろうは何とか理由をつけてカニ江に話しかけようとし、その辺に落ちていた柿の種を拾って、「交換しようぜ」と持ちかけた。


カニ江は拒否した。


おにぎりと柿の種の交換が割に合わなかったからではない。


ゆめたろうの風体が気持ち悪かったからである。


トータルで14点だ、とカニ江は思った。


禿げあがった頭頂部は勿論、全身の毛がまばらであることやぎょろりとした目が何を考えているのか分からない、というのもかなりその採点には影響していた。


ああやっぱり2点だ、とカニ江は採点をし直した。


日増しに点が下がっていくような、そういう気持ち悪さがゆめたろうにはあった。


が、結局、交換には応じることになった。


気持ち悪すぎて、もはや言葉のやり取りをすること自体に嫌気が差してきたからである。


おにぎりを失ったカニ江は、あんな野郎の手垢がついた柿の種を手元に置いておくのは嫌だったので、すぐにそれを埋めやった。


そしたら育っちゃった。


育っちゃったものは仕方ないので、収穫に踏み切ろうとも思ったが、いかんせんカニ江は蟹だった。


蟹であることをこんなにもおぞましいと思ったことはなかった。


カニ江がたわわに実った実をただ見上げるだけの、つまらない毎日を送っていたある日、ゆめたろうが再びやってきた。


ゆめたろうは猿だ。


猿は木登りだ。


そしてゆめたろうはさっさか木を登り、柿の実をがしっと、その手で器用に採って見せた。


だけどゆめたろうは素直になれない。


一人っ子だったからですか、母子家庭だったからなのですかと、とみこは泣き叫ぶ。


理由はどうあれ、ゆめたろうの口から出てくる言葉は意地悪なものばかりだ。


そして一つ目の事件は起こった。


得意なはずの木登りも、初めて友達が出来るかもしれないと気持ちが浮ついていては、し損じる。


足をトゥルリと滑らせたゆめたろうは、地面に落ちそうになるつかの間になんとか体を翻し両腕をとっさに枝に引っ掛け、運良く転落は避けた。


だがその際の強い振動によって、柿の実(それも全く熟していない)が落ち、カニ江に強かに当たった。


当りどころも悪ければ、そのタイミングも最悪だった。


カニ江は臨月だった。


そして柿の実が当たったショックで生まれたのが子蟹(カニ兵衛)である。


そしてカニ兵衛は現場の状況を後から聞き、激怒した。


状況証拠からゆめたろうが犯人であることは容易に想像ができた。


そしてかの復讐劇が巻き起こったのである。


とみこは言った。


「ゆめたろうが何をしたって言うんですか。あの子は何にも悪くありません、なんとしてもゆめたろうをあんな風にした本当の犯人を捕まえてください」


それがとみこの強い願いだった。


私はそれを静かに聞き、獣臭や生臭さ、普通にうんこの匂いとかもするこの法廷で、自分なりの正義を貫く決断をした。


こうして、私の長い一日が始まったのである。


続く
  • -
  • -

かぐや姫+SF小説 第三話(最終回)

ヤマデーブゲッリヤマデーブゲッリヤマデーブゲッリ、オマ デーリゲルンパ(芋を煮たい芋を煮たい芋を煮たい、そして食いたい)
マルセル・プルースト『コンビニライフにぞっこんだぜ 第9巻』


大変なことが起きるきっかけと言うのは概してくだらないものだ。

ボリンガ星史を振り返ってみればそれは一目瞭然で、星中を巻き込んで1000年以上も続いた第三次モウタイ大戦争は、ダッデム国王43世がフェデリク湖岸で暗殺されたのがきっかけで、その暗殺を企てたのは第3側室のビラーデル姫であり、その決断に至ったのは国王が姫たちに配ったカシューナッツ(この星で言う所の羊羹)の大きさがまちまちであったばかりか、セメント(この星で言う所のお茶)はぬるく、箸休めとして用意されたじゃがりこ(この星で言う所のじゃがりこ)があまりにも堅かったことに腹を立てたその日が、観測史上最も暑く湿度も高くイライラジメジメする日だった、という理由からである。

かぐや姫が巻き込まれることになったボリンガ星VS地球の全面的大戦争、「ボイヘレンの乱」のきっかけは、そのえっとなんていうか・・・帝の恋心であった。

帝くらいになっちゃうと、世の中に自分の言うこと聞かない奴なんてまあいないわけだが、かぐや姫にはそれが通用しなかった。

だってノット地球人だから。

帝と会い、帝にアドレスを聞かれ、面倒だがしつこいので教え、帰りの道中にもう連絡があり、長文で、すんごい長文で、簡単にいえば「好きっす」ってことで、あーかったりぃ、と思ってる間に、もう次のが来、だりぃだりぃと思ってる間に、どうにか帰宅し、それからというもの、とにかくしつこくやってくるその連絡に、うんざりぐったりしつつ、でも時には返し、すると信じられない速さで信じられない分量の返事が来、やっべえこれドロ沼、ドロ沼ラビリンスっしょ、とか思ってたら、なんか涙出てきて、なんかもう止まんなくて、着物ビッショビショで、重くて、いいやもう寝ちゃお、と、思ってたら、空のあっちの遠くの向こうの方から、来た。

お迎えが、来た。

あれだけ待ってたものが、本当に現れたときのリアクションなんて、たかが知れている。

んあー

かぐや姫から実際に出た言葉はそんなもんだった。

んぽー

と言いながら立ち上がり

んきゅー

と言いながら老夫婦に事情を話し

んんどばーじゅらっちゃんーぎゅりどふぇん!

と言いながら明日お世話になった人にあいさつ回りをしたのち、ボリンガ星に帰ろう、と心に決めた。

でも帝はどこまでも粘着質な奴だった。

かぐや姫のそうした事情を耳にした途端、軍勢を率い、かぐや姫を腕づくで我が物にしようとした。

ボリンガ星人たちにとって、「送りこんだ娘がそこでモテちゃう」なんてのはまあよくある話だったので、戦の準備はあった。

あったが、いつもとは事情が違った。

つい先日のことだ。

ボリンガ星の現国王イポリン8世と、彼の第11側室マッタイン姫の長女ジュリトン姫との間に子供が出来た。(こんなこと覚えてる人は皆無だろうが、第11側室マッタイン姫はかぐや姫の母親であり、ジュリトン姫はかぐや姫の姉である。そして側室の娘と国王が通じてたなんてのは万国共通・言語道断のタブーである)

このスキャンダルを受け、イポリン8世は「自分は誘惑されただけだ」とコメントしたため、瞬く間にマッタイン姫とジュリトン姫の処刑が決まり、つい先頃、執行された。

つまり、かぐや姫はもう地球にいる理由がなくなったから、もう姫でも何でもないから連れ戻されるのである。

そうとは知らず故郷に帰れることをやみくもに喜ぶかぐや姫、それを何とか阻止しようと励む帝、詳しくは聞かされてないけどとにかくかぐや姫を連れ戻さないと自分が何をされるかわかったもんじゃない、下っ端ボリンガ星人たち。

この微妙にずれた三者の在り様こそが、「ボイヘレンの乱」が不必要に長引いた一番の原因である。(余談だが、ポップラー波を銃口から放つ最新式のヨンヨンレーザーガンに対し、竹槍を担いだ軍勢が、案外健闘したことで、ボリンガ星では竹に似たヒッテレの再評価がこの戦争をきっかけに進んだのは有名な話である。)

結果的には、下馬評通り、ボリンガ星の圧勝に終わった。(余談だが、この戦争で唯一犠牲になったボリンガ星人であるイクリナス・エモ・ダンビダンビ・ルーネンバーの死を悼む、という名目で作られた「エモ公園」は、先ごろ、ホームレスや暴走族の溜まり場と化し、風紀を乱しているから無くせという住民の声があまりにも多かったため、完全に消滅した。今は、彼の故郷であるベッシラ駅前に「竹槍に串刺しにされたエモ・ダンビダンビ像」だけが寄贈され、若者たちの待ち合わせ場所として使われている。)

帝はそうなるといともあっさりと手を引き、何事もなかったかのように「ちん、ちん」言っていた。

老夫婦もまた、何事もなかったかのように、老夫婦らしい背伸びをしない生活に戻っていた。

かぐや姫は・・・・心弾ませていた。

ボリンガ星の言葉で「希望」と言う意味を持つ「サトーン号」の窓から見える円形の宇宙を見つめながら、これからの自分にわけもなくわくわくしていた。

思わずこんな詩を、曇った窓ガラスに書いていた。

ク デレーオラ イヴェデンサ イオ ポムニ オリ オリタ ラッパエス

もちろんこの時のかぐや姫に、星に戻ってから自分の身に降りかかる運命など想像することすらできなかった。

彼女にできることと言えば、ただぼーっとして、なぜだか流れてくる涙を拭きながら、少しずつ遠ざかっていく地球を見つめることくらいだったのである。

はい、めでたしめでたしですね。

かぐや姫+SF小説、完。
  • -
  • -

かぐや姫+SF小説 第二話

オポリ ゲ ダビーラ ヨムヤムヘレデスオイト ガンダギャンドゥイ(では早速、片栗粉でとろみをつけていきまーす) 
ジャック・ラカン「野菜と梅毒より」


かぐや姫にとって「地球で老人によって持ちかけられる縁談、その後結婚」というシナリオほど、生きる気力をそぐものはなかった。

ボリンガ星人にとって、異星人との結婚はそのまま異星への永住を意味するのであって、話に聞いたことしかないジュレティおばさんの様な悲惨で滑稽な人生を歩むわけにはいかないので、かぐや姫は真剣に考えていた。

そもそもこの星に嫌々ながらも送られてきたのは、無事に帰るため、帰って大人になるためなのであり、ボリンガに帰った後、『ダダビリの昼下がり』や『キーラ・デッセ・オマン―ニンタポの物語―』などで知られる俳優のケゲレー・ウドンコスタのようなタイプの男子と出会えないとも限らないし、割と思い込みの激しいタイプでもあるかぐや姫にとっては、そういう出会いがまず間違いなく訪れるであろうとほぼ確信していた。

だので。

どんな奴が求婚に来ようとも、ヴェンドポ地方出身の女性らしく、言葉とテクニックで首尾よく追い払うような算段を、ほぼ毎夜、ボリンガのある方角の空をじっと眺めながら繰り返していた。

時は来た。

かぐや姫の前には五人の男たちがずらりと並んだ。

地球の男たち、それも強欲にまみれた連中特有の、脂ぎった精神が作り出す汚い笑顔をそれぞれが個性なく浮かべながら、群がっていた。

どいつもこいつもなかなかに高貴な身分らしく、この星での流行を取り入れた奇抜なファッションに身を包んでいたが、異星人の立場からものを言わせてもらえば、どれもこれも見るに堪えない、例えるならばユーゲダの死骸にゼンポニやゲジュンがプンプンたかっているような(まあそれは言いすぎだが)、そういうひどいものだった。

だから無茶苦茶を言った。

仏の御石の鉢も蓬莱の玉の枝も火鼠の裘も龍の首の珠も燕の子安貝も、ボリンガではたやすく手に入る類の別段珍しいわけでもない代物だったが(とはいってもその辺に落ちてるとかそういうことではなく、ウェンジズ爺さんに頼んでインダボ・フェンダボの術を使って出してもらうわけだが)、地球にはその手の超人がいないのでまあ見つけてくるのはどだい無理な話と踏んで、「これを持って来たら結婚してやる」と高らかに宣言してやった。

5人のうち4人までは、まあ精神が淀んでいたのだろうこともあって偽物をこしらえたり、的外れなものを持ってきたり天気が悪くなったので探すのをやめたりしていたが、ちょっと好青年タイプの(俳優でいえばミン・ダッセ!)男が、いささか誠実な探しっぷりであと一歩のところまで肉薄してしまったので、まあ彼には悪いことをしたがサクッと絶命してもらった。

はい残念~

心の中でかぐや姫はニマニマしながら、なんとか縁談の危機を乗り切ったのでいよいよさあやっとこさついに帰れるぞ帰るぞ帰ってやるぞと、盛り上がっていた。

なのに。

かぐや姫の噂を聞きつけたこの国のトップオブセンターオブジアースが、つまりは帝が、「ちんかぐや姫にあいたいちん」と言ってきた。

正直面倒だったが、まあそこ押さえておけば箔が付くのは間違いなかったので、まあとりあえず行ってみた。

だがそれが悲劇の始まりだった。

後世に「ボイヘレンの乱」と語り継がれる宇宙大戦争の序章と、この対面がなろうとは、送られてきた帝からの招待状に描かれた帝の顔に、落書きしそれに飽き、寝て、厠に行きたいとごね、何でさっき言わなかったんだと諭され、さっきはしたくなかったんだもんといじけ、寝て、こんな狭い籠で運ばれる私、を、飛脚がかつぐ荷にたとえ、こんな歌を詠んだかぐや姫は、知る由もなかった。

ニタラグデ イタルデレンヴォ ココタミル ヒングラベベド キニスカヤンゲ

思いがけず名歌が詠めたので、またニマニマしつつ、何度も言うようだがこの時のかぐや姫には知る由もなかったがこの後、えらい大変なことになるのであった。

次回早くも最終回!

続く
  • -
  • -

かぐや姫+SF小説 第一話

ニブ エ ダッセシ マラッキキダゲルポドフ
(お好み焼きだからって何いれてもいいってわけじゃないんだぜ)
 ルカ福音書 第3章58節


かぐや姫は自分の運命を呪っていた。

姫とは名ばかりの、国王の第11側室の次女にすぎない自分のようなものは、こうして見知らぬ星の臭い植物の内側に身をひそめて佇んでいるのがお似合いなんだよと、昔からウマの合わないジュリトン姫が陰で言っているような、そういう気がなんだかずっとしていた。

早く星に帰りたい。

星に帰ったからと言って、そこそこに虐げられるであろうかぐや姫を待ち受けている運命などたかが知れていたが、それでもこんなところにいるよりはましだと、思っていた。

かぐや姫の生まれたウリウリ系M110星雲ボリンガには、成人女性になるその前に、ユン・ホイズラー博士の開発したニンゲッカイルポージポ装置によって急速に幼児化された後、チンダルーリワープによって適当な星に送り込まれ、伝説など適度に残しつつなんとか生き残れば晴れて大人、生き方が平凡だったり野蛮な獣とかに捕食されて生き残れなければそのまま追放っていうかさよなら、みたいなほとんど罰ゲームの様なならわしがあり、馬鹿言ってんじゃねえようざってえよケツの穴に豚トロぶちこんで雑に割った割り箸でぐちゅっとするぞこの野郎、とだれもが皆一様に思うようなしきたりながらも、黙ってそれを受け入れざるを得ない自分の残念な生い立ちには、嫌気がさすばかりだった。

だが、そうは言っても、ここまで来たからにはきちんと成果を残して帰りたいと思うのがかぐや姫の案外真面目なところでもあり、こうしてヒッテレに似た植物の中に身をひそめているのも、初めの出のテンションを大事にしたいというのと、なにはなくともちっちゃいのは無条件にかわいがってもらえるもの、というのを身をもって知っていたからであった。

だもんで。

かぐや姫を発見したのが耄碌した老人だったのは幸いであった。

既に視神経がいかれ現実と夢の境界が精神的にも視覚的にもあいまいなその老翁は、自分はまだまだボケちゃいないんだと言うことを主張すべく、たまたま切った竹の中から偶然少女が出てきたという事実を、竹藪の中で光っていた竹を見つけ切ってみたら玉のようにかわいい少女がいた、という思いがけずレジェンドな方向に捻じ曲げてくれた。

こうしてかぐや姫は期せずして、この星である程度スペシャルでいられる基盤を手に入れ、そして、ほとんど病気のようなスピードで成長した。

通常、ニンゲッカイルポージポ装置によって幼児化したボリンガ人の女性が、ウンツク製薬のショルタリンBを毎食後2錠ずつ服用した場合にのみ、3年程度で元の状態に戻ることが出来るわけだが、おそらくこの星の大気の状態や老人たちがふるまってくれる食事(かぐや姫は筑前煮と呼ばれるブルレッロからオレペレの実を抜いたような料理が特に好物だった)が何らかの、ベオブラボリンに似た成分を含んでいた結果、そういうことになったのだろう。

そうして、数カ月の間に元の、年相応の姿に戻っていったこともまた、かぐや姫の生涯をいい感じにレジェンディックな装いにしてくれたので、幸いだったと言える。

しかし、こうなってくると気になりだすのは、かぐや姫は果たしていつどのタイミングでこの星から帰ることができるのか、と言うことだった。

ボリンガ星のそもそものならわしでは、「生き残る」と言うことがかなり重要なわけで、それは幼児化したボリンガ星人の女性はしばしば獣の餌食になりやすいからなわけだが、これだけ手厚く過保護に扱われていたらそういう心配もなく、なので要するに、もうすぐにでも帰還できるのではないかと期待してしまうのも無理がないのであった。

だがそううまくもいかない。

テリターリおじさんがよく言っていた「ゲレ イポリーポ ユル フェッタ インヴォス!」というあの諺をつい、思い出してしまう。

ある日、老人たちがかぐや姫に示したのは、この星の背の低い男たちとの「結婚」という、もう元も子もない提案だったのだ。

続く
  • -
  • -

「桃太郎+官能小説」 第五話(最終回)

赤鬼(1036)は、その日もこれまでの毎日と全く同じ朝が来、やがてこれまでの毎日と全く同じ夜が来るものだと、そう思っていた。

そもそも、鬼退治、と言えばなんだか聞こえはいいが、要するにそれは人種差別である。

人を見た目で判断し、肌の色で人間の価値を決める。

これをアパルトヘイトと呼ばずに何と呼ぼうか。

腹立たしいのはやまやまだが、ひとつ問題があった。

・・・タイプだった。

桃太郎イズマイライフ。

とか、赤鬼が考えてたとは露知らず、桃太郎一行は、鬼を、ズタズタにして殺した。

その模様をダイジェストで伝えると、大体こんな感じである。

桃太郎はまず、赤鬼の胸元に、何となく丁度良いような気がして、ロン(キジ)を投げつけた。

ロンはついばんだ。
夢中でついばんだ。

次に自主的に向かって行ったのは、血の気の多い性格でおなじみのポー(サル)である。

背中をひっかいた。
やたらとひっかいた。

最後に嫌々突っ込んでいったのは、実は既にその体が不治の病に冒されているショー(イヌ)である。

後ろから首をかんだ。
ただかんだ。

桃太郎はとどめに、家から持ってきたけど一度も使ってないからちょっとさびてる刺身包丁を、もうほとんど息も絶え絶えの赤鬼の下腹部につきたてた。

ズブブブッ、と言う音だけがやにわに響いていた。

大体こんなのである。

だが、赤鬼にとっては、ちょっとしたエロパラダイスだった。

赤鬼目線でもう一度、プレイバック。

胸元への鋭いついばみは彼の乳頭温泉をビンビンに湧き立て、背中への爪を立てたる愛撫は彼の一角獣、すなわちユニコーンをより屈強にけたたましくしたのだし、首元への強かなるギャートルズ的な肉を思わせるかぶりつきは、足元が、ていうかそこら一帯が、頸動脈からドバドバ出た血で、ビタビタになっていたけれど、誰にも渡したくないよお前をという気持ちで、キムタクで言う所の「俺じゃダメか」的な、そういうつまりはあすなろ白書だった。

そして何より、タイプのゴリゴリ眉太ヤングマンにちょっと鋭利な金棒で、下腹部をズブリズブリと刺される最高のフィニッシュホールドには、二つの意味で昇天するしかなかったのだった。

こうして鬼は死んだ。

桃太郎は思い切りよく、手分けをして、鬼の首を切り取って、記念に持ち帰ることにした。

帰るまでにまた多くの時間を要したので、鬼の首には蛆が、引くほどわいちゃあいたが、そもそも土に帰るのかどうかも微妙だったので、我慢した。

無事、帰宅。

ただ、桃太郎が「ああ人生っていろいろ」と思ったのは、家に帰るとでんじろうとふじこと誰だか知らない汚いでかい男が、誰がどう見ても争った形跡をそこかしこに残して、コッテリ血まみれで、もつれるように死んでいたことだ。

ハエがたかっていた。

ハエがたかっているそれと、ウジがわいた鬼の首とぐちょぐちょに腐りきってる犬の死骸(だいぶ前に病死)を抱え帰って来た桃太郎は、それをそれの隣に置いて、それらを横目に、隣で、久々に布団を敷いてぐっすりと眠った。

いろいろと面倒なことはすべて先送りにして。

その夜、桃太郎は7歳になった。

普通の人間でいえば、30歳そこそこと言ったところである。

はい、めでたしめでたし
  • -
  • -

<< 2/3 >>

Home > 新しいむかしばなし

Search
Feeds

Page Top