TextTop > BlogTop > Archives: April 2009

アーカイブ: 2009/04/15

さるかに合戦+法廷が舞台の小説 第四話(最終回)

カニ兵衛がこれまで登場してきたどれともはっきり異なっていたのは、蟹離れしたたくましい精神力だった。

一言目からそれは際立っていた。

「私がここで語るべきはただ一つ。今回の件に関する真相です」

そしてこう続けた。

「事件の概要としては、ゆめたろうさんが囲炉裏で火に当たっていると、火中のクリントンが飛び出してきて顔にぶつかり、冷やすために水を探してたらビーリー・ミリガンが尻を刺し、外に逃げようとすると屋根からウス吾朗が飛び降りてきて圧死させた、と言うことでよろしいですよね?」

うんそう聞いているぞふむふむ、もっと聞かせたまえほらほら。

「結論から言いましょう。私が個人的感情から誰かを殺めるなんて、考えただけで泡吹いて卒倒しそうになります」

なるほど。つまりあれだな、君は無罪を主張するんだなむほ~ん。

「はいそうなります裁判長」

あれ、心の声なのに。

「私の全てを分かっていただきたい。あなたならきっとそれが出来るはずだ」

勇ましくそう言い放ったカニ兵衛に、私はヒトと蟹と言う種族差を超えて胸の奥がむずむずするような筆舌に尽くしがたい感情が溢れ出てくるのが、止められなくなっていた。

それから閉廷まで、何が起きたかなんてほとんど覚えていない。

ただはっきりしているのは、検察側の思惑にも弁護側の思惑にもそぐわない結論を、私がもうろうとする意識の中、必死で出したと言うことだ。

検察側の求刑は被告人全員の死刑であったわけだが、やはり直接手を下しとどめをさしたウス吾朗以外にその罪は重くしよっ、と判断し、ウス吾朗は普通に死刑で、ビーリー・ミリガンは島流しの刑(親との別離をやむなくされた彼が、必死で親を探すこととなり、そのエピソードを基に作られたのが『みなしごハッチ』であることは有名な話)、クリントンにはデパ地下での永年勤務の刑(そこで気に入られ、パートのおばさんのちょっとした悪戯でもち米と混ぜられた結果、偶然生まれたのが『栗おこわ』であることは有名な話)が科せられることとなった。

そして、カニ兵衛・・・・無罪。

とみこは呆然として顔を赤らめ尻をぼりぼり引っ掻いていたけれど、あたし彼を裁くことなんてできない。

そう思ったらもういろんなことがどうでもよくなっちゃった。

だからあたし決めたの。

この胸のドッキドキが収まるまで、どこか遠くへ行こうって。

カニ兵衛さん。

あなたはやっぱ、有罪よ。

だってあたしのハートをチョキチョキしたんだから。

あたしにたとい軟禁されても、文句言わずにズビズバ答えなくてはならない、の刑よ!

あたしはこうしちゃいられないので、とりあえず閉廷して、ゆったりとした足取りで席を離れながら、ちょっとした違和感を覚えた。

なんでこんなにあたしの靴の裏側の主に右方面から、獣の排泄物に似た悪臭がするのだろう、と。

足を上げ匂いの原因をこの眼で突き止めようと一瞬思ったが、すぐにやめた。

あたしは変わるんだ。

すぐに何かの理由を、論理と正論で突き詰めるようなそういうつまらないことはもうしないんだ。

あたしは裁判所の赤絨毯に茶色い臭い何かをまき散らしながら、底抜けの笑顔で外に出た。

ああなんてまぶしいのかしら、世界。

このまぶしさで、ご飯何杯でもいけるわよ!!!

あたしは実際にそう声に出して、ついについに、蝶になったのでした。



つうわけで・・・・・・・

めでたしめでたし!!
  • -
  • -

1/1

Home > Archives: April 2009

Search
Feeds

Page Top