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デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

第09回 「壊れかけのゲシュタルト」

第09回 壊れかけのゲシュタルト

あなたが何か本を読んでいるとするでしょ。

話をわかりやすく具体的にするために、ここでは仮に
押切もえの『モデル失格』を読んでいる、ということにしましょうよ。
もしどうしても嫌な人は、勝間和代の『断る力』でもいいですよ。

で、その中にたとえば「勃起」という言葉が出てきたとして、

「勃起に必要なのは、まず第一に人脈です」
「弱火で両面がこんがりときつね色になるまで勃起し…」
「農民たちは地主の圧制に対して一斉に勃起を起こしました」
「衣笠茸とよく似た形状を持つ小型の勃起茸は神経性の猛毒を持ち…」
「新自由主義的な米国型資本主義の勃起型経済構造においては…」
「5コマ漫画の展開は勃起承転結が基本です」

といった風に、同じ言葉が何度も何度も繰り返し出てくると、
不意に「あれ、“勃起”って本当にこんな字だったっけ?」
妙に違和感を覚えることがあるじゃないですか。

これを認知心理学の用語で「ゲシュタルト崩壊」と言うらしいんだけど、
そしておそらく『モデル失格』にも『断る力』にも
「勃起」という言葉は1回も出てこないと思うけど、
この現象は、身の回りでかなり頻繁に起きていると思うわけよ。

たとえば、今うちの部屋にはあだち充の『ラフ』がベッドの脇で全巻
平積みになっているんだけど、これを気分が落ちているときにじっと見てると、


ララララララララララ
フフフフフフフフフフ


という文字列がゲシュタルト崩壊を起こして


う う う う う う う う う う
つつつつつつつつつつ

と見えるのな。
人が落ちてるときに、あんまりな追い討ちなのである。

「癌」という字もずっと見ているとゲシュタルトが
崩れて「ダースベーダーの顔」に見えてくるし、
「マリリン・マンソン」は「マソソソ・マソソソ」に…って、
なんだかナイツのネタみたいになってしまったが、
とにかく、そういうことはきわめてしばしば起きる。

ゲシュタルトとはもともと「全体としてのまとまり」という意味だから、
言葉に限らず、たとえば人の顔とかにもゲシュタルトは存在するだろう。

ずっと見ているとゲシュタルト崩壊を起こしやすいのは、
たとえばともさかりえ麻生太郎の顔であって、
彼らは顔のパーツが三々五々「流れ解散」しているような印象を受けるが、
そして今、私はどさくさ紛れにひどいことを書いているのかもしれないが、
マイケル・ジャクソンのように本気でゲシュタルトが危機の人もいるので、
あえてそちらには触れない。

あるいはまた、大量脱退と新加入を繰り返して「モーニング娘。」
としてのゲシュタルトが崩壊してしまったり、
「関ジャニ∞」のようにそもそものゲシュタルトがはっきりしないグループもおり、
また、度重なる路線変更によって芸風がゲシュタルト崩壊を起こしてしまった人、
逮捕された音楽プロデューサーの元彼女や、落語家の元嫁のように、
人格のゲシュタルトがヤワヤワになってしまった人など、
芸能界はきわめてゲシュタルトが崩壊しやすい世界であるといえよう。

他にも、ゲシュタルト崩壊を起こしやすいものはたくさんある。
書店のビジネス書コーナーにおける勝間和代の顔アップの表紙とか。
あと、勝間和代っていう名前そのものとか。

そんな中で、今私がもっとも気がかりなのは、
実は「イチロー」のゲシュタルトなのである。

いつからか、イチローが試合の後にペラペラとしゃべりだすようになってから、
「あれ、イチローってこんなこと言う人だったっけ?」
「あれ、この人ってこんなに危なっかしいキャラだっけ?」
「ていうか、この人ってこんなに瞳孔開いてたっけ?
と、どんどんゲシュタルトが崩壊してきてしまった気がする。

特に、韓国のことを悪しざまに言うときのゲシュタルトが、危ない。

もちろん、先日のWBCでの奇跡のような活躍に対しては、
最大級の賛辞を贈りたい気持ちはあるものの、
ほとんど何を言っているのかわからないあのヒーローインタビューを見るたびに、
やはり私の心には、イチローに対する言い知れぬ「心配」がよぎり、
思わず聞きたくなってしまうのだ。

「あなたのゲシュタルト、崩壊してませんか?」と。

ま、かくいう私も、生き方のゲシュタルトはもはやグズグズですけどね。

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