TextTop > BlogTop > デリカシーには貸しがある > 第02回 「なぜ人は異性の前で動物をかわいがるのか09'冬」

デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

第02回 「なぜ人は異性の前で動物をかわいがるのか09'冬」


第02回 なぜ人は異性の前で動物をかわいがるのか09'冬


この前、会社を出て飯田橋の夜道を歩いていたのよ、俺は。
会社までの道がわからなくなってしまわないように、一定間隔で「たべっこどうぶつ」を落としながらの道中よ。
したらね、居酒屋の店員が、オレンジ色の悪目立ちするスタッフパーカーを羽織り、「月曜半額!」の看板を掲げながら、頭にパンダのかぶり物をかぶって客の呼び込みをしていたのさ。

パンダ関係ねえじゃん!

…という、ツッコミというにはあまりにベタな「苦言」が、自然と心の内から湧き起こってしまったわけよ。
これが、「ドラえもんまつりでドラえもんの着ぐるみ」なら話はわかる。
「クリスマスフェアでトナカイのコスプレ」もまあOKとしよう。
だが、「読書週間にインド象のぬいぐるみ」はたぶんダメだし、「サラダ記念日に平野レミの等身大パネル」ではわけがわからない。それくらいの脈絡のなさだろう、パンダのかぶり物で「月曜半額」を主張するのは。
パンダのかぶり物で主張していいのは、「尖閣諸島は誰のもの」とか「笹食べたーい」とか「Yonda?」とかだと相場が決まっている。

さらにゆゆしきことは、そのかぶり物がパンダの頭部をすっぽりかぶる「フルフェイス型」ではなく、ご当地キューピーのように顔が丸出しになっている「なんちゃって型」だったことだ。
顔の上に顔を乗せてしまうことの杜撰さ。について、人はもう少し慎重になったほうがいいのではないか。
じゃあ、パンダのその部分はお前の何なんだ、と。人面瘡か、と。
あのタイプのかぶり物を見るたび、いつもそう思う。
劇団四季の『ライオンキング』の主人公・シンバも、最初見たときは「人が後頭部をばっくりライオンにやられている」のかと思った。

しかも、あの居酒屋のパンダ店員の場合、問題はもっと別のところにある。
「パンダになりきる」のではなく、「パンダの力で自分がかわいくなろうとしている」感じがして、すごく姑息なのだ。
そう、動物は無垢でイタイケなイメージを持たれがちである故に、ときに人間の「自分アピール」に利用されるのである。

たとえば、友達以上恋人未満みたいな2人が公園を歩いてるとするでしょ。もちろん、あとで迷わず帰れるように、道には「たべっこどうぶつ」を落としながらですよ。
で、散歩連れの犬を見つけると、女は「あーかわいいー♪」とか言いながら駆け寄って、なんかもうこねくり回すように犬を抱いたりなでたりするじゃないですか。

あれ、ぜーーーったい「私ってちゃんと母性あるオンナなのよ」みたいなアピールが言外に含まれていると思うよね。
もっと言ってしまえば、そういう「動物とじゃれる姿」を見せ付けることで、セックスの際のベッドの上での娼婦性みたいなものも、遠回りにアピールしている気がしてならない。
ほら、美容院で、アシスタントの子がシャンプーするときの手つきが妙に「なまめかしい」と、なんか変な気持ちになったりするじゃない。
「わざわざ動物をかわいがってみせる女」に対して、どうもそれと同じものを感じるのである。

で、問題は逆の場合よ。
男が犬や猫を手なづける姿というのは、もっと直接的にフェロモンのあるなしや、セックスのスキルを想起させるじゃないすか。
だから、男にとって「犬や猫が自分によくなつくかどうか」は、「お前オスとしてフェロモン出てるのかどうなのか」というジャッジを下されているような気がして、すごくプレッシャーを感じるのだ。
犬よ、お願いだからこの女の前でだけは俺になついてくれと、そう思うときは確かにある。

プレッシャーに感じない男がいたら、それはよっぽど男女間の水面下のセクシャル・ネゴシエーションに鈍感な男か、よっぽど動物から自然と好かれる「ハメルーンの笛吹き」みたいな男かの、どちらかだと言ってよい。
考えすぎと言われようが、これはもう絶対にそうなのだ。

動物のかわいさを隠れ蓑に、いわば動物の「かぶり物」をすることで人間としての「あられもなさ」を覆い隠すという意味では、先の居酒屋パンダ店員も、犬猫をかわいがるカップルも同じである。
これはもう、絶対的に動物に対して失礼ですって。
犬猫も犬猫だよ、人間のそんなはしたないアピールのために、自分の体を無防備に使わせていていいのか、と問いたいね俺は。
「ハッハッハッ」とか「ゴロゴロ…」とか、はからずも「発情」を想起させるような反応をしてしまうのもよくない。相手の思うツボじゃないか。
もっとこう、「つれない顔をしてみる」「やや哀れみを込めて笑う」「逆に、引くほどリアルに発情してみる」「いきなり死ぬ」などの方法で、人間に対して謀反を起こしてほしい。

動物は、「ハッハッハッ」禁止!
あと、人間は動物のかぶり物禁止!
(ただし、「さかなクン」だけは例外として許可!)

これが、私の考える人間と動物との共生のルールなのである。

Home > デリカシーには貸しがある > 第02回 「なぜ人は異性の前で動物をかわいがるのか09'冬」

Search
Feeds

Page Top