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デリカシーの機微が問われる現代社会のさまざまな局面に、ぼんやりと警鐘を鳴らす無神経なコラム。

第11回 「ブスが街から消えるとき」

第11回 ブスが街から消えるとき

このところ女々しい話題が続いたので、
久々にオスっぽいことを書いてもいいだろうか。

最近、街からブスが消えたような気がする。

それでも昔は、道行けばここにも、ああここにも…と、
金曜の夜に駅のホームでオガクズが撒かれているのと
同じくらい必然的な確率で、街にはブスがいた。

休み時間に光化学スモッグ注意報が出されて
外で遊べなくなり、「あーあ…」とがっかりするのと
同じくらい的確な頻度で、街にはブスがいた。

それが今ではどうだろう。

みんながみんな、そこそこそれなりに
ほどほどの「美人度」をキープしていて、

思わずぎょっとするような、
思わず「ぎょっ」と口に出してのけぞって
うっかり頚椎を痛めるようなブスは、
とんとお目にかけないといっても過言ではない。

とはいえ、人類学的に考えても、
そう簡単に美人の頭数が増えるとは思えない。
だとすれば答えはひとつ。
美人が増えたのではなく、国民の
メイク技術の水準が格段に上がったのだ。

廉価でも充実したコスメグッズが誰にでも手に入り、
氾濫する女性誌のおかげで、
全国どこにいても美の統一規格を教育され、
「顔の正答例」を答え合わせできるようになった今、
あえて「間違う」ことのほうが難しくなっているのである。

つまり、こと「顔」において女性は、
よくしつけられた幕府の犬なのである。

もうひとつ、「顔」とは別に「プロポーション」の問題もある。

去年の夏、私がつとに感じたのは
「生足を大胆に露出する女性の増加」だった。

しかも、その出す生足出す生足がみな、
ししゃものようにほっそりとしたモデル並みの脚ばかりであって、
モビルアーマー然としたごんぶとな脚は、ついぞお見かけしなかった。

とはいえ、いくら食生活が欧米化したからといって、
小学生に「好きな食べ物は?」と聞けば、いまだに
寿司が1位とか2位に食い込んでくる現状にあって、

森理世さんをミス・ユニバースとして受け入れることに
一瞬、青汁を飲むときのような覚悟がいるほどに、
我々は身も心もズブのアジア人だ。

そんなアジアアジアした日本女性が、
突如として全員スタイルがよくなるわけがない。

つまり、「出してもいい人」しか生足を出していないのである。

「出していい」足の持ち主は、自分の足が
「出していい」ことをちゃんとわかって出しており、
そうじゃない人は、自分が「出していい」足でないことを
自覚して、ちゃんとしまっているということになる。

「見られる」そして「見せる」ということに
どんだけ成熟してしまったんでしょうか、現代の日本人女性は。
という話だ。

もちろん、街に美人があふれ、
きれいな足だけが目に触れる光景は、
男にとっては願ってもないいらっしゃいませ
そしていただきますという状況だ。

しかし、「生足を出す/出さない」という、
本来個人の自由であるはずの選択に、
見えないデリカシーのルールブックが存在し、
それを無言のうちに誰もが遵守している
社会というのは、いささかうす気味悪くないだろうか。

自分が「空気読めてない」ことに
怯えて足を出さないというのは、
割と飲み込みやすい従来の日本人って感じがするが、

自分が「空気読めてる」ことを
きっちり自覚して足を出し、
しかもそれがちゃんと世間の空気と
「一致してる」ってことがすごい。
ていうか恐ろしい。

末恐ろしい。

むしろ息苦しい。

すご末息苦恐ろしい。


そう。みんなが空気を読めすぎている社会というのは、息苦しいのである。

自分が「モビルアーマー」であることに無自覚なまま、
自然薯のような足をスカートから見え隠れさせている
ブスが堂々と街を闊歩していた頃もまた、
おおらかで情緒ある時代だったとはいえないだろうか。

手羽先のようにいびつな、
「世界の山ちゃん」みたいな足を
ズボズボ出してる人を見て、
「あ~あ…」とか思いながら町を歩くことにも、
それはそれで趣があったよな…
という郷愁にあなたは駆られないだろうか。

あなたは駆られなくても
高橋は駆られるかもしれない。
室田や富樫ならなおさらだ。

陰と陽、ネガとポジ、月とすっぽん、太陽とシスコムーン、
世界は、相反するアンビバレントな要素が渦巻く
カオスを許してこそ、バランスがとれるというものだ。

要するに、過剰にポジティブなものだけを肯定し、
ノイズを排除してしまう傾向は不健康だし、危険だと言いたいのです。

それはそれとして、北野誠の謹慎理由が
明らかにされることを切に願います。

では、今週はこれにてドロンします。

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