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第3回「出会いがしらの一期一会」(全4回)


タクシードライバーとは
ごくありふれた市井の“働くおっさん”代表である
タクシー運転手に気さくに話しかけ、そのフツーの人生の中に
ささやかなきらめきを探す、何の変哲もないインタビュー企画。


第3回「出会いがしらの一期一会」(全4回)
(担当:福田フクスケ)

タクシー運転手は固定給ではないので、
個人の売り上げによって儲けが決まる。
だから、滅多にいない長距離客を待つよりは、
一日にできるだけたくさんの客を乗せるに越したことはない。

しかし、そのぶん見ず知らずの他人と、
狭い車内で2人きりにならざるを得ないのは、
危機管理という面でなかなかにリスキーだ。
現に、都内ではタクシー強盗がしばしば発生しているし、
それがそのまま殺人事件に発展してしまったケースもある。

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実際、タクシードライバーのみなさんは、
危険な目に遭ったことはないのだろうか?
私がこれまでに出会った運転手たちの回答をまとめてみた。

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2009年5月1日 Aさんの場合
A「危ない目にあったことは何度かありますね。
暴力振るうのは、酔っ払って威張った奴がほとんどです。
逃げられたりもけっこうあるよ。
逃げたのを追っかけたところをやられちゃった人もいるしね。
そういうのは、運が悪いと思ってあきらめるしかない。
ただ、昔はタクシー強盗なんて少なかったんだけどねえ…」

2009年5月15日 Sさんの場合
俺「夜中とか、危険な目に遭ったことないですか?」

S「そういう風に思ってたら、お客さんにはお乗りいただけませんよ。
最終的には信頼関係ですからね。こんな仕事できなくなっちゃう」

俺「そうか…さすがですね」

S「まあでも、こういうこと言っちゃ失礼かもしれませんが、外人の方はこわいですよ。
全員が全員じゃないのはわかってるけど、身構えますよ」

俺「何かあったんですか?」

S「初乗りが660円の時代でしたけど、飯田橋から乗ってきた方に
“市ヶ谷まで”って言われて、神楽坂下の信号で停車した途端に、
500円くらいポイと投げて、ドア開けて逃げていっちゃったんだ。
お金が足りなくなって、やばいって思ったんだろうね・笑」

2009年5月20日 Nさんの場合
俺「最近じゃ、タクシー強盗とかあって、怖くないですか?」

N「タクシーの運転手襲ったって、金なんか持ってないのにねえ(笑)。
うちの運転手でも、2ヶ月くらい前にいましたよ。
真っ昼間に、ネクタイで手足縛られてナイフ突きつけられたって。
幸い、私はそういう目に遭ったことないですけど、周りではやっぱり聞きますね」

2009年6月25日 Tさんの場合
俺「客を乗せて、怖い思いしたことありますか?」

T「怖かったのは、のど元にノミを突きつけられたことですね」

俺「ええー」

T「無線で呼ばれて行ってみたら、女の子が一人助手席に、
大工が2人後部座席に乗ってきたんですよ。
たぶん、酔っ払って、飲む店を移動したかったんでしょうね。
そしたら、女の子のほうが、“ねえ、運転手さん…”なんて言って、
ちょっとしなだれかかってきたんです。
そしたら、後ろの2人が怒っちゃって…」

俺「それだけで!? とんだとばっちりですね」

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う、うーん……。
こんなこと言っちゃいけないんだろうけど、
正直、あんまりパンチのあるエピソードは聞けなかった。

なんかもっと、「アラブ人に身ぐるみはがされて…」みたいなバイオレンシーな、
「振り返ると座席がびしょぬれで誰もいなかった…」みたいなイナガワジュンジーな、
そういうすべらない話を期待していたのに。
まあ、みなさんご無事でなによりです。

それよりも、誰もが口をそろえて
「厄介な客」として非難轟々だったのが、
実は酔っ払いなのだった。

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2009年5月20日 Nさんの場合
N「めんどくさいお客さん乗せるのはしょっちゅうだね。
特に、酔って爆睡してる人は困りますよ。
何回道を聞いてもまっすぐだ、まっすぐだって言われて、
着いたら“ここじゃない”って言われたり」

俺「うわ、めんどくさいですね」

N「乗せる前から、この人はやばいなってのは目つきとかでわかるようになりましたね。これは寝ちゃいそうだなとか、これは揚げ足とられてイチャモンつけられそうだなとか」

俺「やっぱり、あるんですかそういうクレームは」

N「今はみんな携帯持ってますから、何かあると
その場でうちの会社にクレーム電話かけるんですよ。
だから、こっちはこっちで「いや、そうじゃない」って
事情を説明するために電話かけて…。
面と向かってるのに、会社を通しながら
電話越しにケンカしたりしますよ(笑)」

2009年5月1日 Aさんの場合
A「私ももう、60歳なんでね、最近は繁華街も行かないようにしてるんですよ。
酔っ払いも乗せないの。売り上げは落ちるけど、そっちのほうが気が楽だから。
遠回りしただの、寝過ごしただの、トラブルが多いし。
向こうの指示があやふやでも、こっちのせいになっちゃうじゃない。
だったら、同じ料金なら普通の人乗せたほうが、ねぇ」

俺「やっぱりいるんですね、そういうめんどくさい人」

A「一度、荻窪で乗せた方がひどく泥酔してましてね、
“荻窪までやってくれ”って言うんですよ。
“お客さん、ここが荻窪ですよ”って言っても、全然わかってくれない。
仕方ないから、その辺をぐるっと回って元いた駅前に戻ってきたら、
“ありがとう”って納得して、普通にお金置いて帰っていきましたよ(笑)」

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お、いいぞいいぞ。
だんだんおもしろくなってきた。
Aさん、その調子で、タクシー乗客の
おもしろエピソード、聞かせてちょうだい。

俺「ほかに、ちょっとおもしろいというか、困ったお客さんは?」

A「オカマが隣に座ってきて、若い運転手だと
誘ってくる、なんてことはけっこうありますね。
ホテルの部屋番号を教えられて、“遊びにきて”なんて言われたり」

なんと、第1回に引き続き、またしてもオカマ誘惑体験談
もちろん、第1回の蕎麦屋の御曹司に連れまわされた人とは別人だ。
ひょっとしたら、タクシー業界では割とポピュラーなできごとなのだろうか。

ところが、このAさんの場合、モテるのはどうやらオカマにだけじゃないらしい。

A「女性でもいらっしゃいましたね。東京駅で乗せた方が、
熱海の芸者だっていうきれいな人なんですけど、
男と別れたって言ってたんで、自暴自棄に
なってたんでしょうね…ホテルに誘われたんです

俺「おお、あるんですねそんなことが」

A「結局、熱海まで行く途中の新横浜で下ろしましたけど。
だって、向こうは誰かもわからないのに、
こっちは会社も車も名前もわかってるからね、
何かしちゃって、そっちのほうが後で怖いでしょ(笑)」


ナイス、賢明な判断
据え膳を食わなかったのは男の恥かもしれないが、
タクシー運転手的には男の鑑だ。

このように、タクシー運転手は運転技術だけでなく、
多種多様な乗客の「めんどくささ」までをも
さばく処理能力が必要とされるのだ。

タクシーという小さな方舟に乗り合わせた運転手と客。
その出会いは、つかの間の一期一会だが、
だからこそ、後腐れなくやり過ごす独特な関係が、そこにはあるのだ。
それでは最後に、ちょっとシュールな体験談を。

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2009年5月15日 Sさんの場合
俺「今までに、おもしろいお客さん乗せたことあります?」

S「おもしろいというか、かわいそうだったのは、神楽坂から東久留米まで行った方でね。
どういう心境だったんでしょうね、乗ってから着くまでずーと、
『カラスなぜ鳴くの~』を歌ってるんですよ」

俺「ずっとですか(笑)」

S「まあ、何かあったんでしょうね(笑)。
後ろであの歌うたわれると、さびしいもんですよ。ずっとですからね。
退職されたのか、なんなのか知りませんけど、
切なくなりましたねぇ、あれは。
聞くに堪えなかったですね

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乗客との出会いは、ときに出会いがしらの事故みたいなもんなのである。

次回、いつの間にやら最終回!

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