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第2回「運転席はシルバーシート」(全4回)


タクシードライバーとは
ごくありふれた市井の“働くおっさん”代表である
タクシー運転手に気さくに話しかけ、そのフツーの人生の中に
ささやかなきらめきを探す、何の変哲もないインタビュー企画。


第2回「運転席はシルバーシート」(全4回)
(担当:福田フクスケ)

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精悍なデ・ニーロのイメージとは裏腹に、
実際のところ、タクシードライバーには
かなりの高齢者が多い。
勤続年数20~30年のベテランドライバーもザラだが、
意外に多いのが50~60歳を過ぎてから運転手を始めた、という人だ。

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2009年5月13日 Hさんの場合

俺「タクシーの運転手も、最近はなり手がいなくて人手不足って聞きましたけど…」

H「入ってきても、売り上げが伸びないから若い人はみんな辞めてっちゃうんだよね。
職がないって言ってる割には、みんなタクシーには乗りたがらない。
運輸省も、昔は60歳定年制を敷いて、58歳以上は採用しないって決めたんだけど、
1年もしないうちに人手不足になって、70歳でも採用しだしたからね」

俺「けっこうお年を召した方、多いですよね」

H「法人タクシーでも、私より20歳くらい上の人がやってるもんね。
九段の公衆トイレに行くと、しょんべんするのに立ってられなくて、
前に手ついてしてる
んだもん(笑)」

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高齢化していく理由はふたつある。
「若い人が入ってこないから」と、「若い人が辞めていくから」。
拘束時間が長い割に売り上げが伸びないタクシードライバーは、
若い人が家族を養っていくにはキツイのだという。
それでも、不景気になると職にあぶれた他業種の人たちが転職してくるが、
結局、長くは続かず辞めていってしまうそうだ。

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俺「いろんな業種から転職されてきてる人も多いですよね?」

H「不景気になると、建築関係と飲食関係の人間が
タクシー業界に流れてくるんだよ。
会社で宴会やると、元コック、板前、みんなそろってるからね。
盛り付けなんかもきれいなもんだよ」

俺「それは便利ですね(笑)」

H「でも、バブル崩壊の後と、今回の不景気では、クワ持った人が多かったね」

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その結果、タクシードライバーは、定年を過ぎて年金をもらいながら
お小遣いを稼ぐ、「余生」の受け皿になりつつあるのが現状なのだ。

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俺「タクシーに乗られて長いんですか?」

H「私ですか?35年。不景気は5回経験してるよ。
そのうち3回はオイルショック
あのときは、車の燃料のLPガスがなくてね。
1日30Lしかくれないんだけど、それをもらうために4、5時間並ぶんだ。
でも、本当はLPガスを積んだ船ってのは沖のほうに停泊しててね、
値が上がるのをずっと待ってるんだよ」

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それにしてもHさんは、さっきから不景気の話ばかり嬉々としてしゃべる。
本当は好きなんじゃないのか、不景気。
というくらいのしゃべりっぷりだ。

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H「不景気になるとね、必ずタクシー事故が増えるんだよ。
バカがふっ飛んでくるから。意味わかる?」

俺「え、どういうことですか?」

H「職にあぶれてタクシーの運転手になった人が、
売り上げが伸びないから焦りだすんだよ。
ほら、自分の車じゃないでしょ?
だから、危険なくらいフカしてくるのよ」

俺「ああ…」

H「客を乗せるために、反対車線から
信号無視でUターンしてくる
なんてザラ。
そりゃ、事故が増えるよね。
ベテランの個人タクシーなんかは、
不景気がくると“またはじまったよ”って笑ってるよ」

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それでも、羽振りがいい時期はなかったのか、と聞くと、
Hさんは「あえて言うなら」みたいな、
絞り出すような口調でこう答えてくれた。

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H「国際線が羽田空港にあったころは、まだ儲かったかな。
すごい奴がいてさ、それまでは通訳してて、5ヶ国語が話せるっていうんだ。
なんで運転手になったのかって聞くと、自由が欲しいっていうんだよ。
まあ、タクシーは朝から翌朝までを月に12日乗れば、あとの18日は休みだからね。
まとまって稼いだら、休みとって世界旅行に行っちゃうんだって。
優雅なもんだよね」

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…うーん、やっぱりタクシードライバーの世界は、奥が深い。

以下、次回へ続く!

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